久々に手に取った小川洋子作品。
以前は好んで読んでいたのだが、芥川賞を前後して離れていた。理由は特になかったのだが、疎遠になっていた作家である。

耳を病んだ主人公の前に現れた速記者Y。
Yの指に無性に惹かれる主人公。
静かで穏やかで美しい二人の関係がはじまる。
記憶と現実の狭間を垣間見る。そして、今ここにある自分はもしかしたら「記憶」の遺物でしかないのか・・・

〝速記者Yの指〟にみとれ、どうしようもなく惹きつけられる。その独特な空気ががとても好きだった。
この〝速記者Yの指〟というのは村上春樹氏の小説に出てくる〝特別な耳を持った女性〟に似ていると思った。常々私の中では著者は村上春樹氏と物語のテイストが似ているように感じていたが、それを改めて感じた一冊。
物語の中で流れる独特な時間、空気。彼らが描くから、違和感なく感じられる。

記憶の世界と現実世界のの危うい中で繰り広げられるロマンティックで幻想的な長篇。微妙な世界観は好き嫌いが顕著に表れると思う。
しばらくぶりで味わった小川洋子ワールドは、以前のままだった。
磨きがかかった独特の世界観が、心に染みた。
ぼんやりと不思議な空間に身をゆだねる、そんな気持ちで読んでみると楽しめる1冊だ。

<中央公論新社 2004年>著者: 小川 洋子
タイトル: 余白の愛