最近書店でも見かける事が多くなった作家、平安寿子。
図書館で手にとり、最初の1頁を見て面白そうだと感じ借りてみた。
新しい作家を手にするとき、最初の1頁の印象で決めるのは私だけだろうか?
文体、文字の並びなどを見て自分と相性が合うか否かわかると思う。

著者は第125回直木賞推薦候補だったこともある名の知れた作家だった。
オール読物新人賞を受賞している女流作家だ。

『もっと、わたしを』はかわいらしい装丁の女性向き恋愛小説集だ。
著者のスタイルは1冊しか読んでいないのでわからないが、読みやすくまとまりのある文体で個性的な主人公が特徴だ。また、ちょっと癖のある人々をうまく絡ませることで物語りに深みを出しているように思う。

主人公となるのは、不器用なあまり恋愛や人生に自身が持てず、屈折感を抱いている男女。
仕事の話以外はうまくできない小太りな男、誰もが認める美男子の営業マン、自分のレベルを理解し自分がどう立ち回るのがよいのか把握している賢いOL、微笑めば喜ばない男は居ない美人の受付嬢、オヤジキラーを自負するシングルマザー、バーを経営するゲイなど、個性豊かな面々が繰り広げる日常を5つの短編にまとめている。

『いけないあなた』はキャリアウーマンの理佳にトイレに監禁された真佐彦の話。
堅肥りで口下手な真佐彦はモテない。生まれてこの方、モテたことがない。人生にポツンポツンと恋愛が落ちていた程度である。
壁紙メーカーの営業で営業成績は上々、役職手当を貰うほどだ。しかし恋愛についてはさっぱり。
そんな或る日仕事を通じて知り合った理佳と交際を始める。結婚を申し込んだが返事が無いまま1年が経過。プロポーズなどなかったようにデートを続けていた。
そんな或る日、監禁される。
理由は真佐彦の浮気だった。
モテない真佐彦が調子に乗ってしまったことが全ての原因だったが、事件は事件を呼ぶもので監禁されているトイレの外は泥沼化していた。
なんと、浮気相手の広子が登場したのだった。

男と女の小さなトラブルを非現実的なエピソードを絡めて面白く描いている。
装丁と内容がリンクしない不思議な1冊。

<幻冬舎 2004年>

著者: 平 安寿子
タイトル: もっと、わたしを