aigananda 人を好きになる。ただただ一途に好きになる。
好きになりすぎて、親しくしていたいが為に自分の人生を省みず相手の都合に合わせる恋愛を選ぶ主人公の真っ直すぎる想いを描く。

主人公は山田テルコ、28歳。
小さな会社で正社員として勤めているOLだ。
友人宅で開かれた飲み会で知り合った〝マモちゃん〟に恋をしてから、テルコの日常は全て〝マモちゃん〟を中心に動き始めた。
大好きな〝マモちゃん〟以外のことは全てどうでもいいことになってしまった。
どんなに忙しくても連絡があれば駆けつけ、友達よりも当然優先し、仕事中でも〝マモちゃん〟から電話が鳴れば即通話し仕事そっちのけで話し込む。
遅刻早退は当たり前、酷い時は居眠りまでする始末で、会社に友達は存在しなくなっていた。
そんなことはテルコにはどうでもよかった。
昼ご飯を独りで食べることも、会社で一言も声を発しないことも、何もかもどうでもよかった。
ただ、〝マモちゃん〟と繋がっていたいだけ。
それが自分にとって一番大切なことだと思っている。
連絡がなければ、〝マモちゃん〟の会社の近くをうろついてみたり、自宅の周りを歩いてみたりする。
そろそろ連絡があるだろうと思えば、直ぐに会えるようにそうやって〝マモちゃん〟が居るだろう場所の近くに控えているのだ。
近付いては遠のく二人の距離に、テルコは翻弄される。
友人からは「あんたは都合のいい女だ」と言われるし、「酷い男だ」とまで言われるが、テルコはどこ吹く風だった。
ただ、〝マモちゃん〟が好きで、どんな形でもいいから繋がっていたいのだ。
もしかしたら愛されていなくても、もしかしたら奇跡が起きて愛されるかもしれない。
テルコは、前に進み続ける。

一途と言えば聞こえはいい。
でも、テルコはそれでは片付けられないところまで行ってしまう。
自分の存在価値や生活基盤を壊しても、好きな人を優先していく。
普通の人なら真似できないし、そんなことしないだろう。
けれど、絶対しないとは言い切れない。
恋をすると、盲目になるものだからだ。
普通というものが何か見えなくなるからだ。
ストーカーまがいの行動や、どう考えても体よく使われているとしか思えない出来事。
テルコが少しずつ普通からズレていく様をリアルに描き、かなり面白い恋愛小説だった。

<メディアファクトリー 2003年>

著者: 角田 光代
タイトル: 愛がなんだ