kuchuteien 郊外の〝ダンチ〟で暮らす4人家族・京橋家。
家族のモットーは「何ごともつつみかくさず、タブーを作らず、できるだけ全てのことを分かち合おう」だ。
しかし、本当は全員心に秘密を持ち、本音を押し隠し笑っている。
家族の心のドアを開くことが出来るのかを問う連作家族小説。

高校生のマナは同級生の森崎と交際していたが、自分が〝仕込まれた〟ラブホテル野猿へ一緒に行ってから疎遠になり、元々友達もいなかったせいもあり孤立する。
放課後は近くのショッピングモールに寄るだけの毎日。
そんな或る日、母親の不信な行動が気になり尾行してみる。

父タカシは大学時代に妻を孕ませてしまってから職を転々としながら家族を支えてきた。
そんなタカシには2人の愛人がいる。
高校の同級生で20年来の付き合いの飯塚、会社のホームページ担当の外注のミーナ。
若くて屈託の無いミーナに惹かれるタカシ。
飯塚に気遣いながらも、ミーナと別れられない。
家族を壊す気は無い。もちろん、2人の愛人ともうまくやっていきたい。
タカシは関係維持に奔走する。

母エリコは家族の帰宅時に部屋を空けたくないという拘りを持つ。
パートをしていても、なるべく子供たちより先に家に帰れるよう努力していた。

近くに住む実母へ心から愛情を抱けないエリコ。
母から連絡がある度に苛立ち、優しく出来ないでいる。
そんな気持ちを抱いていることを家族に知られまいと、自宅では明るく振舞っている。

中学生のコウは地味で友人も殆どいない。
放課後は最寄のショッピングセンターの立ち入り禁止区域の屋上で、1つ年上のミソノと他愛ない話をして過ごす。
時には住宅展示場をただ見てまわる。
建物に興味のあるコウは、住宅展示場で知り合ったミーナとあれこれ話すうちに意気投合し、家庭教師という名目で家に来てもらいながら、自分が知りたいことを教えてくれ、話し相手になってくれと頼む。
ミーナが本当はどんな存在なのか、うすうす感じつつ、家庭教師と生徒という関係を続ける。

一見仲良く見える家族。
嘘も隠し事も無く、みんな笑っている家族。
平和で幸せな家族。
そう見える京橋家だが、当然の如く各自悩みを持ち、嘘をつき、それらを家族には知られまいとしている。
どんな仲良し家族でも、隠し事は1つもないなんて家族は無いだろう。
言わなくてよいこと、知らなくてよいことは存在し、当然のことなのだ。
でも、それを敢えて題材とし家族1人1人、家族に関わる人々を主人公とした連作小説にしている作品には出会ったことがなかったので楽しめた。
壊れそうでも、危うくても、家族は家族。
最後にはちゃんとまとまり、笑うべき時には笑いあい、助け合い、成立するものなのだということを教えてくれた1冊。


文芸春秋 2002年


著者: 角田 光代
タイトル: 空中庭園