niji 実家の食堂、タヒチアンレストランと、ウェイトレスをする主人公の恋と転機の物語。
吉本ばななの「旅」をモチーフとした小説シリーズの1つ。


人生初とも言えるまとまった休みを使ってタヒチへ一人旅をしている水上暎子が主人公。
海と太陽に包まれたタヒチで一人、暎子は思う。
東京での怒涛の日々、そして自分の心。
これからどうするのか、自分はどうしたいのか。
タヒチで東京の生活を思い起こし、自分と向き合う姿を描く。


暎子が育ったのは海辺の観光地で、祖母と母と暮らしていた。
二人がは小さな食堂を営んでいた。
幼い頃から食堂の手伝いや家事をして過ごしていた暎子。
母が食堂を畳んだのをきっかけに東京に出て、憧れていたタヒチアンレストラン「虹」で働きはじめた。
人生初めての就職は、住宅街にある素敵なレストランで、暎子はウェイトレスを天職だと感じるようになる。
充実した毎日が過ぎていたのに、或る日母が死んだ。
暎子は母の死で疲労し、体調を崩してしまう。
見かねた店長が暫くの間、オーナーの家の家政婦をしながら休養してはどうだと暎子に提案し、暎子はそれを受け入れる。
オーナー、オーナーの妻、オーナー宅で飼われる犬と猫。
それらとの出会いで暎子の心は揺れ、乱れ、穏やかな毎日に変化が生じる。
恋や怒りや衝動的な行動が続く中、逃げるようにタヒチへ旅立った暎子。
帰国までの日々の中で、暎子は悩みながら、自然と戯れながら、自分が歩む道を見つけ出す。


自分の暮らす場所から遠く離れて、己を冷静に見つめる。
自己との対話的な物語の進み方は、読みやすく感情移入しやすかった。
揺れる自分、迷う自分を見極めるには、その悩みの種から離れて冷静になることが一番だ。
主人公が冷静になる場所に選んだのは、タヒチだった。

何度読んでも、どの作品を読んでも、毎回著者の世界に浸ってしまう。
どうして著者はこうした世界が描けるのだろうか。
優しくておくゆかしい言葉の数々と、心に迫る感情表現は素晴らしいと思う。
この作品でも魅せられてしまった。


<幻冬舎 2002年>


著者: 吉本 ばなな
タイトル: 虹 (単行本)


著者: 吉本 ばなな
タイトル: 虹 (文庫本)