hachi 運命に導かれるように出会った男女の、恋の物語。


主人公マオは不思議な力を持つ祖母の死に際に、予言のようなものをつぶやかれた。
急いでメモを取ったそれは、【あとは継がない、絵を描く、ハチ、大事、ハチの最後の恋人】だった。
新興宗教のようなものの教祖的な存在だった祖母と、その会を営む母の下で育ったマオにも、何か不思議な力はあった。
祖母が亡くなった後、揉めている家に嫌気がさして家出をした時、ハチという名の男性に偶然出会う。
恋に落ちる瞬間、突然訪れる家庭の崩壊、変わった人々との出会い、ハチとの穏やかな生活。
そして、いつか訪れる別れ。
ゴールの見えた恋愛に身を投じるマオとハチのせつないやりとりが心に沁みる。
優しさにも寂しさにも満ちた不思議な時間の中で、愛を育み、羽ばたく時を待つ二人。
そしてマオは気付く。
もう会えないとしても、死んだ訳じゃなく、この空の下でハチは生きているんだと。


どうして著者の小説に出てくる人々は、こんなに素直で透明感がある感じなのだろうか。
エグいことをしていても、とんでもない境遇で育っていても、それらが悪い方向へ働かずにいる感じがして、読んでいて暗い気持ちにならない。
現実的で生々しい様々な体験の部分も、嫌悪感を味あわせないで読ませる文章を書くって凄い。
そこが魅力なんだろう。

<中央公論社 1996年>


著者: 吉本 ばなな
タイトル: ハチ公の最後の恋人 (単行本)

著者: 吉本 ばなな
タイトル: ハチ公の最後の恋人 (文庫本)