fujisan 日本の象徴ともいえる富士山。
新幹線から見えると、何度も見ているとしても窓から覗かずに居られない富士山。
その富士山をテーマにした中編集。


『青い峰』の主人公・岡野はコンビニでチーフを勤めるアルバイター。
岡野にとってコンビニは聖域であり、汚れなき場所である。
この静寂を守りたいと日々思っている。

岡野は富士山が好きだ。
ある写真家が撮った富士山の写真を愛している。
その岡野になつくバイトの女子大生・なつみ。
深夜のバイトに就いているなつみは、何故か岡野になつき、岡野を誘い、岡野を知りたがる。
しかし、岡野はその行動にどう答えればよいのかわからない。
岡野は普通のことが出来ずにいた。
それは富士山の麓に居を構えていたある宗教団体に属していたことが関係しているのか、岡野の生い立ちが関係しているのか。
岡野はとにかく、なつみに対してどう対応すればいいのか困惑していた。
そんな中、コンビニ強盗が入る。
一度目は阻止できたものの、二度目は無理だった。
入院する岡野の傍にいるなつみ。
なつみが言う言葉が染みて涙が流れる岡野。
岡野はやっと、コンビニ以外の静寂を手に出来るかもしれなかった。


その他、『ジャミラ』も面白かった。
富士山というのは、なんとも言えず神聖なる場所なイメージだが、普通の山でもある。
その富士山をテーマにした4つの物語は身近な物語は1つも無いが、なんとなく理解できるという物語ばかりだ。
ゴミ御殿、青木が原の樹海など知ってはいるがリアルではないそれらが舞台だったりする。
日本人にとって富士山は、やはり特別なのだ。
実は著者が苦手だったが、この作品集は面白く楽しめた。
発売当初、売上ランキングで常に上位を保っていたのがわかる。
富士山って、凄いなとなんとなく思ってしまう1冊。


<文藝春秋 2004年>


著者: 田口 ランディ
タイトル: 富士山