moonlightshadow 高校の時に知り合った恋人との永遠の別れ、それに伴いやってくる終わりの見えない喪失感と再生の日々を描く不思議で心温まる物語。
「キッチン」に収録された短編を日英バイリンガルで楽しめる1冊だ。



主人公・さつきは高2の修学旅行委員を通じて等と知り合う。
緩やかに恋は進み、二人は恋人同士に。
幸せな時間がこの先もずっと続くと思っていたとき、等が交通事故で死んでしまう。
最愛の恋人を失ったさつきは、今までの人生や他の人とは違う別空間で生きはじめる。
今までと同じように暮らせない毎日。
眠るのが怖くて、夜明けの街をジョギングし、昼間眠る生活をしていた。
いつもどおりジョギングをしていると、ジョギングルートになっている橋で見知らぬ女・うららに声をかけられる。
うららの存在を忘れかけた或る日、うららから電話が来てうららと会うさつき。
彼女は「あの橋が架かるあの川で見ものがあるのよ」と言うのだ。
気になりつつも、それがいつかわからない。
いつもどおりの毎日を過ごす私。
日々、等を思い、等の弟・柊とも会ったりしながら毎日を過ごす。
またジョギングをして、同じ日々が始まろうとしていた朝、橋でうららに出会う。
うららは「今からここの次元や空間がゆがんだりはがれたりするわよ」と言うのだ。
さつきは興味深くその説明を聞き、川を見守るのだった。
そこでさつきは、最愛の人に再会する。



原マスミの挿絵、マイケル・エメリックの翻訳、パープルの背景に黒と紫の文字が横書きで続くおしゃれな本で、ビジュアルでも楽しめる。
物語は夢のようなファンタジー要素の強い物語で好き嫌いがあるかもしれないが、私は心に染みた。
最愛の人の死と、それを受け入れるまでの再生の日々は辛く悲しい。
でもずっと自分の殻にこもってはいられないのだ。
その殻を破るきっかけが、ステキなエピソードとして記されていた。


著者があとがきに書いていたのだが、この物語の中に著者の書くべき要素が全てつまっているそうだ。
初期の作品ながら、本当に素晴らしくよしもとばななという作家の良さが存分に表現された作品だと思う。
相変わらず「読後感がいい」。
著者の作品の魅力だ。
この物語も感覚的にスッと入ってくる作品だった。



朝日出版社 2003年>



著者: よしもと ばなな
タイトル: ムーンライト・シャドウ