usinahareru 思春期に失ってしまった何かを思い出させてくれるような、不思議な物語の短編集。
ライトノベルで発売されていた作品に新作書き下ろしを加えた6編を収録。


『しあわせは子猫のかたち』は、家族や同級生など〝人〟から距離を取りたいと考える青年が主人公。
彼は大学を実家から遠い地に選び、ひとり暮らしをすることで孤独の世界に浸り一人ひっそり死んでいくことを望んでいた。
伯父の所有する一軒家に暮らすことになったが、その家では殺人事件があり前の住人が死亡していた。
その住人の荷物はそのまま放置され、飼っていたであろう子猫も残っていた。
しかし、そんなことは特に気にもならない彼。
彼はそこで新しい生活をスタートさせる。
子猫は餌もあげないのに大きくなり、時々ゴミ箱にネコ缶が捨てられていたりする。
カーテンを閉めて光を閉ざそうと思っても、知らぬまにカーテンは開けられている。
他にも沢山の不思議な現象が起き、ここには自分以外に住人がいるのではと思い始める。
珈琲を入れてくれたり、雨が降れば玄関にバスタオルを置いてくれたり、ゴミをまとめておいてくれたり、彼はいつのまにか謎の住人と波長があっていて、うまく暮らせるようになっていく。
大学にも友達と呼べるような人間が出来始めたり、近所のおばさんからどうやって前の住人が死んだのかを聞いたり、近くの沼で大学生が死んだ事件を知ったり、彼の生活は孤独とはどんどん遠くなっていく。
そして、彼はある事件と謎の住人が繋がっていることに気付く。


『Calling You』は携帯電話を持たない女子高生の、頭の中で鳴る携帯とその携帯で繋がる人々の悲しい物語。
表題作の『失はれる物語』は交通事故で肉の塊になってしまった男と、妻・子供とのせつない交流を描く。
とにかく、本書に収録されている物語はファンタジーな部分もあるし、普段私が避けているような物語だったりもするのだが、なぜか楽しめ自然と次々ページを進めてしまっていた。
著者の描く物語に惹かれていくのがわかる。
有り得ない出来事ばかりが収まっているけれど、わかっていてもそれをフィクションとして楽しめる。
楽しめなくてバカにしてしまう作品も沢山あるが、著者の作品はどれも魅力的で楽しめてしまうのだ。

好きな作家が出来るとその作家の作品を一気に読む癖があるので、暫く著者の作品を紹介し続けるかもしれない。

せつない思いを求める時には、おすすめの1冊。


<角川書店 2003年>


著者: 乙一
タイトル: 失はれる物語