その5 温暖化でお米やミカンがまずくなるって本当?


 「温暖化が進むとお米やミカンの味が落ちる」。こんな話を耳にしたことはないだろうか。ただのうわさではない。地球温暖化によって起きている変化のひとつなのだ。温暖化の影響というと、海面上昇やそれに伴う島国の水没 ホッキョクグマ の危機、異常気象 や災害など、遠い世界の出来事を思い浮かべる人がほとんどでは。でも、温暖化は自然環境だけではなく、実は私たちの社会や暮らしにダイレクトに響く問題なのだ。なかでも、農林水産業への影響は「食」に関係するものだけに無視できない。


写真提供:農研機構 果樹研究所 杉浦俊彦さん 
全国地球温暖化防止活動推進センター
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」より
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科学者による予測では、温暖化が進んで地域の平均気温が3度上がると、世界全体でみた場合の潜在的な食料生産量が低下するという。また、日本の主食であるコメや、ミカンやリンゴなどの果物を栽培できる地域が変わるほか、収穫できる量(収量)が減ったり、品質が落ちたりする心配もある。とくに西日本地域でコメの収量が減るおそれがある。九州では2007年、コメのおいしさの程度を表す一等米 の比率が低くなったが、これには温暖化が作用したと考えられている。さらに、台風や豪雨、水害などにも大きく左右される。

温暖化により漁業も大きな打撃を受ける。たとえば、海水温が上昇してプランクトン の数が減ると、それを食べて育つサンマは次第に小さくなる。また、冷水性のコンブやワカメは育ちにくくなり、ノリの収穫時期も変わる。一方、サワラやブリは今より北の海でも獲られるようになる。畜産業をみると、温暖化によって肉の生産が下がり、西日本では約50年後に15%以上も低下するところもある。また、飼料となる作物の不足も深刻な問題である。

余談だが、ウシなど飼料を反すうして食べる家畜のゲップにはメタン がたくさん含まれている。メタンは二酸化炭素 (CO2)の20倍以上も温室効果のあるガスで、CO2の次に温暖化への影響が大きい。肉の生産量アップに加えて、家畜から出る温室効果ガス の発生を抑える技術の開発にも取り組まなくてはならず、畜産業は大変だ。コメ、魚、肉など、食品に現れつつあるゆっくりだが確実な変化。食卓をながめながら温暖化の影響を実感する日が来るのは、意外に近いかもしれない。