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別れの曲 (練習曲 ホ長調) 仲道郁代



ショペーンは何者でもない。

ただ、流れる時の中を彷徨う存在でしかない。

ショペーンはあまりに長い時を過ごしてその辛さに耐えかねていた。

何者でもない者に神は問いかける。

「そなたは何者なのだ。何故私が作った世界に存在しているのだ。」

ショペーンは答える。

「あまりにも長い時が過ぎて私はその理由を忘れてしまった様だ。」

神は何者でもないショペーンに憐れみを覚えて、その存在を自ら消してしまう方法を授けた。

「ショペーンよ。この果実をそなたが愛した者と分け合い食すが良い。さすればそなたの長い旅は終わりを迎える事が出来ようぞ。」

「有り難い。もう私は疲れ果ててしまった。早く消え去りたい。」

ショペーンは神が与えてくれた果実を分かち合う者を探し求めた。

しかし何者でもないショペーンにその様な者が現れる筈もない。

再びショペーンは流れる時の中を彷徨う。

ショペーンは彷徨い続けながら、別れの曲を奏でる者を待ち続けている。



オシマイ