私がこのノートに初めて書きこんだのは
今から30年近く前のことでしょうか



それから今日まで
何度このノートを開いたことか

今ではずいぶん汚れてしまいましたが
我が家のキッチンの引き出しに
ずっと置いてある物です



この一冊のノートには
母の料理のレシピがたくさん書いてあります



今は何か作りたいと思ったら
ネットですぐレシピを調べられます

だからなんでも作ろうと思えば作れます



でもやはり違うんですね

それだと母の味はどうしても出せなくて



母に教わりながら一緒に作った料理

「待って!待って!」と
母の手を何度も止めながら
書き込んでいったこのノートには
母の味がたくさんです



書かれているのは所々少し曖昧で
適当な表現だったりして

でもそれは母がそう言いながらやるのを
隣で見ながら書いてたんだっけ



かと思えば
この材料は最後に入れてあまり煮ないとか
中心に指でくぼみをつけるといいとか
ここで沸騰させない
これは3回位に分けて味付けしていく

曖昧かと思えば
まるで知恵袋のように細かいことも

母の声が今にも聞こえてきそう



母と一緒に作りながら
急いで書いていった事ばかりなんだけど
そのどれもが母の言葉で教えてもらった事



だからこのノートを開くたびに
母と一緒にキッチンに立った事や
母の味を懐かしく思い出します



私がメモしながら母と料理をしていた頃
まだ小さかった私の娘も
お婆ちゃんの料理は今でも大好きで

とくに雛祭りの時期になると
お婆ちゃんの味が恋しくなるようです

どうしてなんでしょうね

たぶん娘にとって
お婆ちゃんが買ってくれたお雛様と
着物をお婆ちゃんに着せてもらったのが
お雛様の一番の思い出になってるのでしょう

私も娘もお雛様を見ると
お婆ちゃんを思い出してしまうんですね

それでお婆ちゃんの味が恋しくなるのかな




今年は娘とお婆ちゃんのけんちん汁

お豆腐を崩して入れるんです
分かりますか

汁の最後までフワポロのお豆腐が美味しい
これが我が家のけんちん汁です



ノートに書いてある最後の料理
それがこのけんちん汁でした


懐かしいな





今年は手巻き寿司と一緒に