スミレ大戦 -29ページ目
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「スミレ大戦」ですわ

帝国歌劇団「花組」のトップスタァとして、常に舞台の真ん中でスポットライトと拍手を浴び続けて来た神崎すみれにとって、シロート同然の真宮寺さくらが「ツンデレラ」の主役に抜擢されたことは、耐えがたい屈辱だった。そして、世を忍ぶ仮の姿である帝国歌劇団から、組織の本当の目的である帝国華撃団へと変わっても、霊子甲冑「光武」の攻撃力を最大限に高めるための陣形「破邪の陣」において、自分ではなく、さくらがその中心であるということが、何よりもすみれのプライドを傷つけた。

それでも、「帝都の人々のため」と思い、自分の心に蓋をして耐え続けて来たすみれだったが、とうとう堪忍袋の緒が切れる時が来た。それが、1996年にセガから発売されたゲームソフト『サクラ大戦』だった。このゲームのヒットにより、アニメや舞台へと世界は広がり、次々と続編が作られて行った「サクラ大戦」だったが、長年耐え続けて来たすみれにとって、これほどの屈辱はなかった。


すみれ 「サクラ大戦、サクラ大戦、サクラ大戦‥‥ゲームもアニメも舞台も、どれもこれもサクラ、サクラと、これはいったい何のおつもりですの!? これじゃあまるで、さくらさんを中心に世の中が回っているようじゃありませんこと!? 帝国歌劇団、花組のトップスタァ、神崎すみれを差し置いて‥‥こんなこと、わたくしは断じて許しません!」

岡村(運転手) 「すみれお嬢様、少し落ち着いてください!」

すみれ 「冗談じゃありません! 舞台でも戦闘でも、常にわたくしの足手まといばかりしているあんな田舎娘が、わたくしよりも目立っているなんて、わたくしは‥‥わたくしは‥‥絶対に許しません!」

岡村 「お嬢様‥‥」

すみれ 「だいたいからして、わたくしに何の断りもなく、こんなゲームやアニメを作った広井王子さんとかおっしゃるお方、庶民のくせに王子と名乗り、このわたくしをさくらさんの引き立て役にするなんて、いったい何様のおつもりですの!?」

岡村 「‥‥‥‥」

すみれ 「岡村! 今すぐにおじいさまのところへ向かってちょうだい!」

岡村 「えっ? 会長のところに‥‥ですか?」

すみれ 「ええ、わたくしは神崎家の娘として、これ以上の侮辱には耐えられません! おじいさまにお願いして、トップスタァのわたくしが主役であるゲームやアニメ、『スミレ大戦』を作っていただきますわ! ホーーーッホッホッホッホッホッ!」


ツ~ンツン ツ~ンツン デレデレレ~~~♪

ツ~ンツン ツ~ンツン デレデレレ~~~♪

ツン!ツン!ツン! デレデレデンデン♪

ツン!ツン!ツン! デレデレデンデン♪

ツ~ンツン デレデレレ~~~♪


着くずした~胸元に~セクシーな鎖骨~♪

笑い声高らか~に~踊り出るすみれちゃん~♪

心まで~ツンデレに~武装する乙女~♪

カンナ蹴散らし~て~存在示すのだ~♪

走れ~光速の~紫のすみれ機~♪

唸れ~衝撃の~神崎風塵流~♪


(セリフ)
わたくしは、神崎家の娘として、プライドのために戦います!
たとえ、それが命を懸ける戦いであっても、わたくしは一歩も引きません!
それが、真のトップスタァなのです!


容赦ない~平手打ち~怯えるさくらに~♪

頬の色染めるま~で~繰り出すすみれちゃん~♪

四六時中~激情を~剥き出しの乙女~♪

上からの目線で~気位示すのだ~♪

走れ~光速の~紫のすみれ機~♪

唸れ~衝撃の~神崎風~塵~流~~♪


すみれのワガママによって、神崎重工は総力を挙げて、すみれだけが活躍するゲームソフト、『スミレ大戦』の開発を行なうことになった。何でも自分が一番でないと気が済まないすみれは、セガの『サクラ大戦』を遥かに超えるスケールのゲームにするため、神崎重工の地下に、広大な帝都のセットを造らせた。すみれは、ここで、脇侍(わきじ)のレプリカと実際に戦闘をして、その映像をゲームに取り込もうと考えたのだった。


すみれ 「あなたたち、脇侍の調整はよろしくて?」

整備員A 「すみれお嬢様! 本当にレプリカの出力を最大値にセットするのですか?」

すみれ 「当然ですわ! 百戦錬磨のこのわたくしが、たかが脇侍のレプリカなど、最大値でもチョチョイのチョイですわ! ホーーーッホッホッホッホッホッ!」

整備員B 「でも、お嬢様、いくらレプリカと言えども、本物の脇侍と変わらない戦闘力を備えていますし、何よりも、一度に6機ものレプリカとの戦闘は、お嬢様1人では、とても‥‥」

すみれ 「このわたくしを誰だと思っていらっしゃるの?神崎風塵流の継承者にして、帝国歌劇団、花組のトップスタァ、神崎すみれですのよ?」

整備員A 「それは分かっていますが‥‥」

すみれ 「それならサッサと準備してくださらない? わたくしと光武の準備は、とっくに終わっているんですよ!」

整備員A、B 「は、はい! お嬢様!」


そして、地下の帝都のセットの中で、脇侍のレプリカ6機と、光武すみれ機との戦闘シーンの撮影が始まった。すみれは、華麗な長刀(なぎなた)さばきで、次々とレプリカを破壊して行き、残すは最後の1機となった。


すみれ 「神崎風塵流! 胡蝶の舞~!」


ドドドドドド‥‥ズバーーーッ!


すみれ 「ホーーーッホッホッホッホッホッ! このわたくしにかかれば、脇侍の5機や10機など、モノの数ではありませんわ! ホーーーッホッホッホッホッホッ!」


と、その時、倒した脇侍の体から、黒い煙のようなものが立ち上り、体内からゆっくりと巨大な機体がせり上がって来た。


すみれ 「こ、これは!?」

モニター室 「巨大な妖力反応が発生しました! どんどん増大しています!」


パシャン! バキッ! バキッ!


モニター室 「キャーッ!」


モニター室の計器類が、次々と割れて吹き飛んで行く。一方、脇侍の体内から出現した漆黒の巨大な機体は、すでに全身を現わし、すみれ機の前に立ちはだかっていた。


すみれ 「こ、これは‥‥神威(かむい)!‥‥ということは‥‥」


周りを確認するすみれ機のモニターに映ったのは、宙に浮かび不敵に笑う葵叉丹(あおい さたん)の姿だった。


叉丹 「ふっふっふっふっふっ‥‥さすがは大財閥のお嬢様、地下で戦闘ごっことは、なかなか面白い趣向だな‥‥」

すみれ 「叉丹! ここは、あなたのような汚らわしい方の来る場所じゃなくってよ!」

叉丹 「ふっふっふっ‥‥相変わらず口だけは一人前の小娘だな‥‥ところで、そのガラクタの乗り心地はどうだ?」

すみれ 「お黙りなさい! それ以上侮辱すると許しませんよ!」

叉丹 「それなら、少し遊んでやるか‥‥」


ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!


すみれ 「キャーーーッ!」


突然、攻撃を開始した神威。すみれ機は背後の壁まで吹き飛ばされた。


神崎重樹 「すみれ! 大丈夫か? 早く避難しろ!」

すみれ 「‥‥うう‥‥お父様‥‥わたくしは‥‥わたくしは‥‥逃げるわけには行きませんわ‥‥」

神崎重樹 「すみれ!」


ガガ‥‥ガガ‥‥プシューッ! プシューッ!


力を振りしぼって必死に立ち上がるすみれ機。コクピットでは、すみれの霊力が少しずつ回復して行く。50%まで回復したところで、すみれは一気に神威へと向かって行った。


ドドドドドド‥‥


すみれ 「行きますわよ! このデク人形!」


ドドドドドド‥‥


すみれ 「神崎風塵流! 鳳凰の舞~!」


ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!

ドゴーーーン! ドゴーーーン!


すみれ 「キャーーーッ!」


プシューッ!


すみれ 「‥‥う‥‥うう‥‥」

神崎重樹 「すみれー!」

叉丹 「ふっふっふっふっふっ‥‥もう終わりか? やはりガラクタはガラクタだな‥‥」

すみれ 「‥‥う‥‥うう‥‥」

叉丹 「よし、そろそろトドメを刺してやろう! 神威よ! やれ!」


完全に動けなくなったすみれ機に向かって、神威の一斉掃射が始まろうとした、その時だった!


マリア 「スネグーーーラチカ!」

ドゴーーーン! ドゴーーーン!

すみれ 「マ‥‥マリアさん?‥‥」


紅蘭 「行っくでぇ~~! チビロボ攻撃やぁ~~!」

テテテテテテ~~! テテテテテテ~~!

すみれ 「こ‥‥紅蘭?‥‥」


カンナ 「うりゃ~~! スーパーリンパーイ!」

ズゴーーーーン!

すみれ 「カンナ‥‥さん!」


さくら 「たとえ撮影セットと言えども、帝都は私たちが守ります! 破邪剣征! 桜花放神~~~!」

ズザザザザザザザーーーーー! ドゴーーーン!

すみれ 「さくらさん!」


大神一郎 「すみれ君! すみれ君! しっかりしろ!」

すみれ 「しょ‥‥少尉!」


叉丹 「ふっふっふっふっふっ‥‥飛んで火に入る夏の虫とは貴様らのことだ! 行け! 神威!」


マリアたちの攻撃によって大破した神威は、アッと言う間に自己再生し、第二形態へと変化した。


ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!

ドゴーーーン! ドゴーーーン!


さくら 「うう‥‥」

紅蘭 「どないしたんや! ウチの光武が‥‥ウチの光武が動かへん!」

大神 「く、くそっ! どうしたんだ!」


叉丹 「ふっふっふっ‥‥そのガラクタのことは、誰よりも設計者である私が知っているということを忘れたか? 神威には、霊子機関に直接ダメージを与える武器を装備させたのだ!」


紅蘭 「こらあかんでぇ~! みんな霊力が下がりまくりや! どないしたらええんや~!」

マリア 「まずいわ! 敵の妖力が上昇しているわ!」

さくら 「‥‥来る!」


ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!

ドゴーーーン! ドゴーーーン!


マリア 「うう!」

さくら 「う‥‥うう‥‥」

大神 「‥‥みんな‥‥大丈夫か?」

紅蘭 「大神はん、あきまへんで! このままやとウチら全滅や!」


叉丹 「もう終わりか? 遊び甲斐のないザコどもだな!」


大神 「‥‥く、くそっ!」


叉丹 「我が魔装機兵は無敵なり! やれ! 神威!」


光武の10倍以上もある神威の機体が、静かに宙に浮かび上がり、巨大な刀を振りかざして襲いかかって来た。霊子機関にダメージを受け、動くことのできない光武では、一太刀で全機がやられてしまう。しかし、神威の黒い妖力に包まれた巨大な刀が、大神たちの機体を真っ二つにしようとした瞬間、目の前に金色の光が広がり、神威は空中で停止してしまった。


大神 「アイリス!」

アイリス 「みんなをいじめるやつは、アイリス、許さないんだから!」

さくら 「アイリス!」


アイリス 「うーーーーん! うーーーーん! 消えちゃえーーーー!」


ドゴーーーン!


アイリスは、一気に霊力を放出させて、神威を吹き飛ばした。


大神 「アイリス! すみれ君を‥‥みんなを頼む!」

アイリス 「うん、分かったよ、お兄ちゃん! イリ~ス・シャルダ~ン!」


ピロピロピロピロ~~ピロピロピロピロ~~♪


アイリスのイリス・シャルダンで、みるみるうちに回復して行く光武と隊員たち。光武全機の霊子力がピークに達し、機体は光に満ち溢れた。


大神 「よし! これで全員そろったぞ! さくら君!」

さくら 「はい! 帝国華撃団、参上!!」


‥‥と、その時であった。刀を構えてポーズを決めたさくら機を押しのけて、すみれ機が前に出て来た。


すみれ、「ちょっと、さくらさん! おどきなさいな!」

さくら 「何ですか? すみれさん」

すみれ 「それは、わたくしの役ですわ!」

さくら 「えっ?」

すみれ 「いったいぜんたいあなたという人は、いつまでリーダー気どりを続ければ気が済むんですの?」

さくら 「そんな~すみれさ~ん‥‥」

大神 「さくら君! すみれ君! 今はそんなことを言ってる場合じゃないぞ!」

すみれ 「でも少尉、ここは神崎重工の中、わたくしのメインステージなのですよ!」

大神 「それもそうだな‥‥さくら君、仕方ない。ここはすみれ君に譲ってやってくれ‥‥」

すみれ 「少尉ぃ~~~ん♪」


カンナ 「おいおいおいおい! アタイらが助けに来なきゃボコボコにやられてたくせによ、なーにが『少尉ぃ~~~ん♪』だよ! 脳天から薄気味悪い声なんか出しやがってよー!」

すみれ 「何かおっしゃいました!? あなたのように脳みそまで筋肉でできているような野蛮なゴリラ女は、お呼びじゃなくってよ!」

カンナ 「なんだとーーー! こーのサボテン女! どうしてオメエってやつぁ~いっつもそう可愛げってもんがねーんだよ!」

すみれ 「お黙りなさい! ゴリラはトットとジャングルへお帰りなさい!」

カンナ 「うっせー! どうしたらそんな減らず口が叩けるようになるんだか、親サボテンの顔が見てみたいぜ!」

すみれ 「このわたくしを侮辱するだけでも許せないのに、お父様のことまで侮辱するとは‥‥」


マリア 「2人とも、いいかげんにしなさい!」

紅蘭 「マリアはんの言う通りや! 今は戦闘中やで!」

大神 「そうだ! 今は敵を倒すことだけを考えろ‥‥って‥‥神威は、叉丹は、どこへ行ったんだ?」 

アイリス 「お兄ちゃん、叉丹は『バカバカしくてやってられない』って言って帰ってっちゃったよ‥‥」

大神 「何ぃ~!」


カンナ 「そーれ見ろ! お前が『少尉ぃ~~~ん♪』なんて言ってるからだぞ!」

すみれ 「何をおっしゃいますの? あなたがゴリラみたいにウホウホと騒いでいるから、呆れて帰って行ったのですわ!」

カンナ 「何だとーーー!」

すみれ 「ホーーーッホッホッホッホッホッ! 単細胞な人はこれだから困りますわ!」

カンナ 「やるかーーー!」

すみれ 「いいでしょう! お手並み拝見といきますわ!」


大神 「2人とも、本当にいいかげんにしろ!」

アイリス 「叉丹はね、すみれとカンナのケンカを見て帰ってっちゃったんだよ。ね~~ジャンポール♪」

紅蘭 「ホンマや! すみれはんとカンナはんが言い争ってる時に、敵の妖力反応が突然消えたんや!」

マリア 「やれやれね‥‥」


すみれ 「ちょっと、みなさん! どんな方法であろうと、敵を撃退したのは、トップスタァであるこの神崎すみれなのだということをお忘れにならないでくださいましね!」

大神 「ふう‥‥」


さくら 「ところで、すみれさん。あのセットの建物の前の大きな看板に書いてある『スミレ大戦』ていうのは何なんですか~?」

すみれ 「あっ! あれは‥‥な、何でもありません!」

さくら 「何でもないって言われても‥‥」

すみれ 「さくらさんには関係のないことです!」


カンナ 「おやおや? これは何だ?」

カンナ機が、足元に落ちていた『スミレ大戦』の台本を拾い上げた。

カンナ 「スミレ大戦? 何だこりゃ?」

すみれ 「よ、よこしなさい!」


それを奪い取るすみれ機。


紅蘭 「はは~ん! すみれはん、もしかすると、『サクラ大戦』の人気でさくらはんばかりが注目されてるから‥‥」

すみれ 「お、お黙りなさい!」

カンナ 「何だオメエ! コソコソと光武を持ち出したから、みんなで様子を見に来てみたら、そんなことを考えてたのか!?」

すみれ 「何でもありません! 気のせいですわ!」

紅蘭 「すみれはん、顔が真っ赤やでえ~」

すみれ 「何なんですの! みなさんで寄ってたかって!」


大神 「みんな、もういいじゃないか! 何はともあれ、敵はいなくなったんだし‥‥」

すみれ 「少尉ぃ~~~ん♪ やっぱり少尉だけは、わたくしのことを思ってくださるのですね♪」

大神 「す、すみれ君‥‥」


カンナ 「やれやれ‥‥やってられないぜ!」

すみれ 「お黙りなさい! 帝国華劇団は、常にこのわたくしを中心にして輝くのですわ! ホーーーッホッホッホッホッホッ! ホーーーッホッホッホッホッホッ! ホーーーッホッホッホッホッホッ!」


唖然とする仲間たちを尻目に、すみれのカン高い笑い声は、いつまでも響き続けて行くのであった。


【完】

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