7年前の暑い日だった。
今ほど地球温暖化がうるさく取りざたされていない頃、拓海はいつもどおり仕事をしていた。
この日は拓海の誕生日だったが、そんなことはあまり頭になかった。
数日前に人事異動の内示があった。
この時期には異例の新規採用による異動。
彼の職場は小さな田舎町。
その中では少し大きい規模の職場。
毎年数人、採用しているが中途採用は前代未聞。
その時のトップの思想が、町外から優秀な人材を!
ということで、時期をずらし採用したらしい。
今回の採用者は4人。
異動内示によると1人は女性らしい名前だが、今風の名前で女性か男性か分からない。
拓海の係にも新規採用職員が1人配属することになっていた。
その、女性か男性か分からない名前の人である。
この日の朝、辞令交付式に拓海は出席しなかった。
本当は採用者の顔を見てみたかったのだが、
いつもは式に出たがらない係長が、この日に限って出席するから拓海に残れと言う。
係を空席にするわけにもいかず、拓海は残って仕事をした。
しばらくして係長が戻ってきた。
どうやら拓海の係に配属されるのは女性らしい。
彼が就職して1年4ヵ月。
初めて同じ係に後輩ができた。
しかも女性である。
拓海も男でなので、一緒に仕事をするなら男性より女性がいい。
などと考えていると、見知らぬ女性がやってきた。
女性?だと思う。
この暑いなか、着慣れなさそうなリクルートスーツを着ている。
髪は男性のように短くカットされ、ボーイッシュとでも言うのだろうか?男の子に見える。
しかし、スーツがスカートであることと、背が小さく、化粧をしているので女の子だろう。
その女の子は、拓海の隣に用意した彼女の机に荷物を置き、同じ課の職員に自己紹介を始めた。
「来未(くるみ)と言います。○○町出身です。皆さんよろしくお願いします。」
蚊の鳴くような、とても小さな声だった。。。