テニス全米オープンの女子シングルス決勝戦で大坂 なおみ 選手が勝ちました。これは歴史的な快挙ですが、同時に前代未聞の波乱に満ちた試合でした。大坂 なおみ と戦ったセリーナ・ウィリアムズ(以下セリーナ)は、グランドスラム優勝23回という強豪。歴史上、最高のプレーヤーとの呼び声も高い。そんな相手を最初から最後まで実力で圧倒し、文句なしの強さでした。

試合は第一セットを落としたセリーナが、第二セットから調子を上げてきた。ところがここから試合は一転しました。観客席から見ていたセリーナのコーチが、手でサインを送り、その仕草を coaching violation と警告をした。そこでセリーナは、アンパイアに1回目の抗議を始めた。でもこれはよくあることで、気に留めるほどのものではなかった。しかしその影響は徐々に表れ始め、ショットの乱れを誘発した。そしてうまく行かない苛立ちからセリーナはついに持っていたラケットを投げつけ、破壊した。その行為にアンパイアから再び今度は code of conduct (規律違反)でのゲームペナルティーを取られる。するとセリーナは再びアンパイアの元へ歩み寄り、更に凄い勢いで抗議した。これが2回目。この時のセリーナの怒りは尋常ではなかった。

その後、にサービスをブレークされ、アンパイアに更なる暴言を吐いた。「あなたとはもう同じコートに立たない。嘘つきで、泥棒よ!私からポイントを奪ったのだから謝りなさいよ!」この場面はテレビに映ったので、誰もがいくら何でも言い過ぎだと思っただろう。ここでゲームペナルティーを取られる。セリーナが訴えていたことは「コーチングを受けていない」ということであり、それについて「謝罪してほしい」ということ。そして自らの態度は、「自分が女性だからである」ことを訴えた。彼女に言わせれば、これが男子の選手だったらこんな大きなことにはならない。試合中の感情をむき出しにすることは、選手としては当たり前であり、誰でもがする。それなのに、今回はペナルティーを取られた。それが納得できない。

今までも、激しい言葉を放ったり、ラケットを蹴っ飛ばしたりする選手は数多くいた。しかしそのことが原因でここまでアンパイアと言い争いになったことはなかったと思う。しかもこれが<USオープンの決勝>である。コーチが指示を出したというルール違反、ラケットをたたき壊したというコート上での不適切な行為。そしてアンパイアーに対する暴力的な言葉に対するゲームペナルティー。セリーナはもはや試合をする精神状態ではなかった。

優勝セレモニーでは堂々と試合をして優勝したのにブーイングを浴びた大坂選手。一体あのブーイングは何だったのだろうか?でも大坂さんのインタビューの言葉が、彼女の優しさをよく表していた。なんとも後味の悪い結果となってしまい、痛々しかった。でも彼女の優しさと思いやりが伝わる内容だったと思う。

さて今回の試合について僕の感想を述べます。

まず史上最強のチャンピオンにストレート勝ちしたのですから、誰に文句を言われる筋合いではありません。大坂選手は、自分の勝利を誇りにしていただきたいと思います。今回のラモス主審は、経験豊富なベテランであり、協会からの信頼も厚いという。USオープンの決勝を任されるくらいだから、当然でしょう。彼の毅然とした態度には好感が持てました。ただ彼が100%正しいかというとそうではなかったと思います。

まず最初のコーチングバイオレーションは、セリーナが見ていなかったと主張しています。ここは彼女ではなく、観客席にいたコーチに注意すべきでした。2番目の規律違反ですが、こちらは警告で良かったと思います。確かに誰でも悔しくてラケットを投げることはあります。男子プレーヤーなら、当たり前のプレー。でも壊すほど激しくというのは珍しい。これをもって、自分は女子だからペナルティーを科せられたと思うのは少々無理がある気がします。

さて問題は3回目のゲームペナルティーです。ここはラモス主審のミスです。「セリーナ、あなたは一線を超えた。これ以上抗議をするなら、ゲームペナルティーを科すので頼むから引き下がってくれ」と一言忠告すべきだったでしょう。いきなりのゲームペナルティーは、これまた前例のなかったことなので本人も納得いかなかったのでしょう。ただセリーナもチャンピオンらしく堂々と冷静にいてほしかった。抗議してもいいのです。でも試合に戻れば、気持ちを切り替えて次のポイントに集中すべきです。一流の選手なら皆そうしているし、彼女ほどの選手ならそれをいつまでもこだわらずにすべきだったのにやらなかったのは残念です。

今回の試合は、現実を受け止めたくない感情も入ってしまい醜態となった。真の新しいチャンピオンは大坂だし、アメリカ人もその現実を受け止めてほしいと思います。あらためて大坂選手、歴史的な快挙、おめでとうございます!