前篇 https://secret.ameba.jp/yuugekitai-21/entry-12578752789.html

中編 https://secret.ameba.jp/yuugekitai-21/entry-12578757032.html

後篇 https://secret.ameba.jp/yuugekitai-21/entry-12578759998.html

 

 第4位…『フラグタイム』
 3分間だけ時間を止められる高校生・森谷美鈴(声・伊藤美来)と、美鈴が時間を止めている時も唯一動き回れるクラスメイト・村上遥(声・宮本侑芽)の人間関係を描く。
 本作で私が重要だと思った点は、美鈴も遥も、そのアプローチは異なるけれども、他人に対してあまり信用せず、表面的に上手くやり過ごせばいいと考えている点です。
 美鈴が時間を止めた状況として、クラスメイトの小林由香利(声・安済知佳)に話し掛けられて面倒臭かったから時間を止めた、という場面がありました。つまり、その場しのぎのやり方でクラスメイトとのコミュニケーションを避けているのでした。
 一方、遥はクラスメイトから授業のノートをうつさせてと頼まれれば快く貸し出す、心優しく頼り甲斐のある人物です。しかし実は、遥は自我を押し殺した上で他人の望みに応えている人物であり、本心では、「自分は本当はこういう人間なんだ」と周囲に公表したいという願望を持っているようです。
 しかも、美鈴と遥もお互いに本心を隠していたのでありました。本作の後半で美鈴と遥がお互いに言いたいことをぶちまける場面があるのですが、この場面こそ、筆者が本稿の冒頭に申し上げた、本作における重要な点を解決に導く通過点と言えます。人間同士の真の信頼関係を築き上げる為には表面だけ取り繕ってなあなあでやっているだけでは駄目なのだ、そうやって得られた人間関係は、一見、友好的に見えるけれども、その実態は上辺だけの関係に過ぎないのだ、という痛烈な指摘が描かれているのです。そこで、美鈴と遥が本音をぶつけ合う場面が重要な意味を持ってきます。あのような激論を経験した上で成り立つ友情こそ本物なのですね。
 本作では、友情を考える上でもう一つ印象深い展開がありました。
 美鈴はクラスメイトの由香利から話し掛けられた時、面倒臭いので時間を止めて逃げていたのですが、或る時、きちんと受け答えをして以来、信頼できる友人関係になるんですね。このエピソードも、人間関係から逃げているだけでは人間関係は築けない、真っ正面から他人に向き合うべきだというメッセージを発しているように見受けられます。
 以上を纏めると、本作は、表面的な人間関係を続ける登場人物が、その状態を脱皮し、他人との信頼関係を築く過程を描くことによって、我々観客にもより良い人間関係構築の重要性を訴えている点に価値があると結論付けることができます。


<製作委員会>パンフレットに記載されず
<配給>ポニーキャニオン
<アニメーション制作>ティアスタジオ
<スタッフ>原作・さと、脚本・佐藤卓哉、キャラクターデザイン・須藤智子、音楽・rionos、監督・佐藤卓哉
<出演者>森谷美鈴・伊藤美来、村上遥・宮本侑芽、小林由香利・安済知佳、他

 第3位…『パンドラとアクビ』
 ゲーム『モンスターストライク』の登場キャラクター・パンドラ(本作では声・小倉唯)と、アニメ『ハクション大魔王』のアクビ(本作では声・天城サリー)が会社の垣根を越え、アニメとゲームというジャンルの垣根も越えて異色の共演!アクビだけでなく、歴代のタツノコプロ作品のキャラクターも何人も登場しています。

 私が個人的に印象深かったのは、『ヤッターマン』の敵キャラクターであるドロンジョ(本作では声・甲斐田裕子)です。ドロンジョは敵キャラクターでありながらも、昭和52年のアニメでは実は純情な心を持った乙女としても描かれました。本作では、ドロンジョのまた違う一面が描かれ、ドロンジョの魅力が深まっています。
 本作でドロンジョは、普段は面倒見の良い店員として正体を隠しながらも、自分のせいで悪人に捕えられたパンドラとアクビを助けに来るという義侠心に厚い一面も持った人物として描かれました。普段、店員をしている時も優しくていい人なんですけど、義侠心に厚い姿も超カッコ良かったです。


<製作>XFLAG
<配給>角川ANIMATION
<アニメーション制作>BAKKEN RECORD
<スタッフ>原作・XFLAG/タツノコプロ、キャラクターデザイン/総作画監督・大倉啓右、音楽・小畑貴裕、監督・曽我準
<出演者>パンドラ・小倉唯、アクビ・天城サリー、三船剛・吉野裕行、ルイーズ・甲斐田裕子、グズラ・江原正士、他

 第2位…『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 -永遠と自動手記人形-』
 テレビアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』とシリーズをなす一篇。
 第一印象として、美しい映像に目を奪われます。朝の日差しが一気に建物に差し込む描写や、木洩れ日の中を進む場面等は大変緻密で、まるで単独の絵画のようです。
 ストーリーの方は、手紙が重要な要素となっており、主要登場人物であるイザベラ・ヨーク(またの名をエイミー・バートレット。声・寿美菜子)がテイラー・バートレット(声・悠木碧)に手紙を送る場面と、テイラーがエイミーに手紙を送る場面があります。
 いずれも手紙の本文は短いものなのですが、この2通の手紙を見て私が改めて感じたことは、手紙は文字を運ぶものではなく思いを運ぶものなんだということです。つまり、文字情報だけを見れば、この2通はあまり多くを語っていないのです。しかし、これらの手紙に込められている情報量は文字数より遥かに多く、お互いがお互いのことを大事に考えているという愛情や思いやりが沢山詰まっています。私も、手紙を書く際は、手紙というものは単なる文字情報を伝達する手段ではなく、思いを伝達をするものだと意識していきたいものです。
 さて、本作を制作した京都アニメーションについては、事件の被害に遭われ、胸が痛みます。お亡くなりになった方々に哀悼の意を表すると共に、負傷された方々が心身共に健やかにお過ごしになれるようお祈り申し上げ、更には会社のご発展もお祈り申し上げる次第であります。


<製作委員会>京都アニメーション、ポニーキャニオン、ABCアニメーション、バンダイナムコアーツ、楽音舎

<配給>松竹
<アニメーション制作>京都アニメーション
<スタッフ>原作・暁佳奈、脚本・鈴木貴昭/浦畑達彦、キャラクターデザイン/総作画監督・高瀬亜貴子、音楽・Evan Call、監督・藤田春香
<出演者>ヴァイオレット・エヴァーガーデン・石川由依、イザベラ・ヨーク・寿美菜子、テイラー・バートレット・悠木碧、他

 第1位…『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』
 ゲームソフト『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』をアニメ映画化。かつてスーパーファミコン版ドラクエVをプレイした観客を、二段階で懐かしいドラクエVの世界に引き込みます。

 まずスーパーファミコンの画面が映し出され、観客をスーファミの時代にタイムスリップさせました。ただスーファミの画面を出したことで途中までのストーリーがすっ飛ばされてしまったので、ゲームをプレイしていない観客にはストーリーが分かりづらくなってしまいました。
 さてスーファミの画面を経て、いよいよ新たに制作された映像に突入します。画面がシネマスコープなので、一気に世界が広がる感じがします。ここから、ゲームで描かれた感動的な場面が次々と新たな映像となって甦ります。
 まず私が挙げたいのが、主人公・リュカ(声・佐藤健)が父親であるパパス(声・山田孝之)からの手紙を読む場面です。スーパーファミコン版ではこの場面で「哀愁物語」という泣ける曲が流れるのですが、映画版でもやはりここで「哀愁物語」が流れて場面を盛り上げています。
 次に挙げたいのが、リュカがタイムスリップして幼い頃の自分自身に会う場面です。大人になったリュカは、幼い頃の自分を励まそうとするのですが、逆に幼い頃の自分から励まされる展開が描かれました。とても勇気付けられる場面です。そして映画版におけるこの場面では、スーパーファミコン版にはなかった描写が登場するのですが、この追加描写が感動的なんですよ。映画版では、タイムスリップしたリュカが今は亡き父パパスの元気な姿を一瞬だけ目撃します。会話をする訳でもなく、一瞬だけ目撃するという展開に目頭が熱くなります。
 ここで本作の劇伴についても言及しておきます。本作ではゲーム版ドラクエVの劇伴が流れますが、それだけではなく、歴代ドラクエシリーズの劇伴が幅広く活用されています。他作品の劇伴でも絶妙な使い方をされていますので、幾つかご紹介致します。
 まず、プサン(声・安田顕)が魔王について語る場面で、ドラクエVIの劇伴「ムドーの城」が流れ、禍々しさを漂わせて観客の背筋を凍らせました。また、リュカとヘンリー(声・坂口健太郎)の友情を象徴する場面でドラクエVIの劇伴「精霊の冠」が流れ、2人の友情が確固とした厚みのあるものであると表現していました。喜劇的な場面ではドラクエVIの劇伴「空飛ぶベッド」が流れ、愉快なやり取りを盛り上げていました。そしてラストでは、ドラクエIIのエンディングを飾った名曲「この道わが旅」が流れました。もう感慨無量です。
 最後に、個人的に本作における最も感動的なポイントだと思っているのが、『ユア・ストーリー』というタイトルです。終盤にわざわざ口に出して言わなくてもいいことを登場人物が言っていたり、未来世界の描写が登場したのは蛇足であり、本作のマイナス面ではあったことは事実です。しかし本作で描かれたストーリーが、単なる架空の世界における架空の人物による冒険ではなく、観客が自ら体験した冒険であり、観客の血肉になっているということを『ユア・ストーリー』というタイトルは表現しています。筆者も、『ユア・ストーリー』というタイトルを名付けた思想に共鳴するものであります。

 余談ですが、意図的に並べた訳ではないものの2019年のベスト10は1位の『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』、2位の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 -永遠と自動手記人形-』、5位の『ルパン三世 THE FIRST』とシネマスコープ映画が3本もランクインしました。ベスト10には入りませんでしたが『HUMAN LOST 人間失格』もシネスコ映画でしたので、2019年のアニメ映画はシネスコ映画が例年よりも多かったことになります。以前はシネスコのアニメ映画が世に出るのは数年に1本とか1年に1本とかのペースでしたので、驚くべきことですが、寧ろ歓迎すべき事態であります。やっぱシネスコはいいですよね!映画はやっぱりシネスコですね!

<製作委員会>東宝、日本テレビ放送網、アミューズ、スクウェア・エニックス、読売テレビ放送、白組、電通、ROBOT、阿部秀司事務所、KDDI、カルチュア・エンタテインメント、読売新聞社、LINE、GYAO、札幌テレビ放送、宮城テレビ放送、静岡第一テレビ、中京テレビ放送、広島テレビ放送、福岡放送
<配給>東宝
<アニメーション制作>白組、ROBOT
<スタッフ>原作/監修・堀井雄二、脚本・山崎貴、音楽・すぎやまこういち、CGスーパーバイザー・鈴木健之、監督・八木竜一/花房真、総監督・山崎貴
<出演者>リュカ・佐藤健、ビアンカ・有村架純、アルス・内川蓮生、サンチョ・ケンドーコバヤシ、パパス・山田孝之、マーサ・賀来千香子、他