童話・二匹の小鳥(文・HIROAKI /絵・SUIREN )
緑の森の
小高い丘に
美しい白い小鳥が
暮らしていました
いつしか
森は開かれ
そこに
人間がやってきて
大きな家を
建てはじめました
全く
人間という生き物は
煩くてしかたがないよ
小鳥は
悪戯でもするかなと
ある家の
2階のベランダに
舞い降りました
するとそこに
雪のように
真っ白な
今まで
出逢ったことのない
可憐な
かわいい小鳥が
いるではありませんか
ああ
なんて
かわいいんだろう
胸がドキドキする
名前は
何ていうのかな
小鳥は
ゆっくり近寄り
目を細めて
照れながら
自慢の歌声を
披露しました
ところが
愛しの君からは
何の返事も
ありません
おやおや
こちらのお嬢様は
都会から来た
箱入り娘さんかも知れない
そうやすやすと
僕なんかに
振り向いてくれるはずがない
小鳥は
それからというもの
朝が来るとすぐに
愛しの君に逢いに
その家のベランダを
訪ねました
そして
一生懸命
綺麗な歌声を響かせます
ああ
何てことだ
大事なことを
忘れてたよ
素敵な
お嬢様には
素敵な
プレゼントが
必要じゃないか
小鳥は
野山を巡り
とびきり美味しい
虫を捕まえては
愛しの君に
捧げました
小鳥が餌を置くと
愛しの君も
傍まで
近づいて来ます
でも
不思議なことに
まったく口を
つけようとしないのです
洗練された
お嬢様の口に
こんなものが
合うはずがないよな
よし
もっと美味しい
最高級のご馳走を
探して来なきゃ!
あぁ
これが
恋ってやつなのかな
小鳥の胸は
激しく高鳴ります
やがて
何日かが過ぎ
見つめる先の
愛しの君の
様子がおかしいことに
気付きました
なんということだ
あの雪のような
綺麗な羽は
灰色にくすみ
抜け乱れ
すっかり
やせ細っているではないか
大変だ
もっともっと
美味しいご馳走を
たくさんたくさん
運ばなくては
それからと言うもの
小鳥は
時間の許す限り
来る日も来る日も
野山を駆け廻り
虫を追い
ご馳走を
運び続けました
豊かだった
森も丘も
街から来た
人間の手で
あっという間に
切り開かれて行き
上等な餌は
どんどん
高い山に
追いやられて行きます
もっと速く
もっと遠くまで
もっともっと
飛ばなければ駄目だ
そして
お日様が
愛しの君を
何十回、何百回と
照らした
ある朝のこと
フラフラの身体で
小鳥は
こう言いました
ねぇ
愛しの君?
僕はもうこれ以上
動けないみたいだよ
自慢の羽もね
ピクリとも動かないや
もう
駄目かもしれないけど
君に
出逢えたことは
僕の最高の幸せさ
ありがとう
そして
残る力を振り絞り
精一杯の笑顔で
浮き上がった
あばら骨を
気丈にも
やつれた羽で
隠しながら
末期の美しい声を
丘一杯に
響かせました
その時
愛しの君は
まるで最愛の人に
捧げるような
優しく歌うように
美しい最高の
笑顔を
小鳥に返しました
ああ
僕はやっと
君の笑顔を
観ることができたんだね
僕の気持ちが
君に伝わったなら嬉しい
これで
やっと
君にプロポーズできるよ
『君を愛しています。
僕と...』
そう言うと
力尽き
それっきり
動かなくなってしまいました
静かに陽が暮れて
そして...
その夜のこと
ねぇ
おかあさん
ベランダに
鳥が死んでるわ
まぁ
気持ちが悪い
せっかくの
新しい
お家が台無しだわ
おかあさんは
ベランダに置いてあった
大きな鏡をどかすと
小鳥の亡骸を
ゴム手袋の手で掴み
大きなビニール袋に
嫌そうに
放り込みました
童話・二匹の小鳥(文・HIROAKI /絵・SUIREN )
鏡に映った自分に
恋した哀れな小鳥
対象が
自分であれ
愛する相手が
いることは幸い
たとえ
命の代償を
払ったとしても
永遠の命を
授かろうと
誰も
愛さず
誰も
愛せずに
生きるのなら
それは
幸せとは
言えないかもしれないです
この物語には
二つの
大きな
主題があります
一つは
鏡に映った
自分に恋し
愛に溺れ
亡くなった小鳥の生き方の是非
もう一つは
たとえ
純愛であろうと
関係のない
人間から観たら
どうでも良くて
何の価値もないこと
それなら
愛の形はなんであれ
誰のためでもなく
自分のためであり
愛に溺れたとしても
それを昇華出来たなら
それは幸せ
生きた証なのかなと。。。
そんな風に思うんですよ
(あとがき:ひろあき)
裏話
原作は
2匹の十姉妹 でした
でも、十姉妹は
野生には存在しないので
小鳥になりました(笑)