童話・カナリア(文・HIROAKI/絵・SUIREN

やがて終わる世界に

人間の愚かな
つまらぬ
争いの代償で
優しい美しい村は
真っ黒に
焼き尽くされた

光に溢れ
希望に
満ちていた村の
その面影もなく
行く宛のあるものは
一人
また
一人と
この村を去って行った

村人は
疲れ果て
誰もが
この世界の
終りを確信した

ある晴れた日のこと
村の外れに
戦火で傷つき
辛うじて
命を繋ぎ止めた
ボロボロの
カナリアが現れた

遠い日に
この地で
夢を抱き
歌を歌い
夢に翔け
空を自由に
駆け抜けた
一羽のカナリア

美しかったであろう羽は
自らの血で
醜く
紅黒く染まっている

最早
瞳は光を失い
翼は千切れかけ
喉は
火薬で焼けている

ただ
死を待つだけの
一つの命

この地に
辿り着けたことは
カナリアには
末期の幸い

程なくして
村の子供の一人が
瀕死の
カナリアを
見つけた

子供たちは
カナリアの身体の血を
自分たちに
分け与えられた
井戸の水を集めて
そっと
洗い流してやり

森に
僅かに残った
薬草を摘み与え
パンの切れ端など
少しばかりの
施しを与えた

カナリアは
少しずつ
少しずつ
力を取り戻し
やがて
自分の力で餌を
啄めるまでになった

ある日
村の子供が
泣きながら
カナリアに
こう話しかけた

『ねぇ
カナリアさん
みんなみんな
みんないなくなっちゃうよ
みんな
この村から
いなくなっちゃうよ』

何も映さないはずの
カナリアの目には
子供が泣きながら
家族と村を捨てる
哀しい光景が映った

何も響かないはずの
カナリアの耳には
子供たちの泣き声
死にゆく村の
地響きのような
泣き声が聴こえた

すると
何を思ったのか
カナリアは
羽を動かした
くちばしを
激しく動かし始めた

飛ぶことも
歌うことも
出来ないのに
カナリアは
村の子供に
そして
村人に
何かを伝えようと
飛ぼうとする
歌おうとする

その有様に
誰もが
苦笑いした

『飛べるわけがないよ』
『歌えるわけがないわ』

滑稽にさえ観える
カナリアの有様

『どんなに
頑張っても
ダメなものはダメだよ
一体何が
出来ると言うのだ』

村人の一人が
冷やかに笑う

それでも
カナリアは
萎えた羽を動かし
枯れた喉を震わす

来る日も
来る日も
カナリアは
その呆れた
行為を
一向に止めようとはしない

あまりにもの
出鱈目具合に
誰もが苦笑いする

カナリアは
毎日
飽くことなく
醜く
体をバタつかせる
くちばしを広げる

そして
いつの間にか
誰もが
カナリアから
目が離せなくなっていた

ただひたすら
バタバタと足掻く
一羽のカナリア

気付けば
誰もが
カナリアに
『頑張れ』と
思うようになっていた

すると
子供が
カナリアの声を
聴いたと言い出した

老人が
カナリアが
飛んでいるのを
観たと言い出した

けれども
カナリアの
努力の甲斐もなく
ある冬の朝
力尽き
ぐったり
動けなくなってしまった

それを聴きつけた
村人が
一人
また
一人と
村の外れに
集まりだした

いつしか
村人全員が
動けなくなった
カナリアを囲んでいた

村人の
気配に気づいた
カナリアは
残った力を振り絞り
羽を動かし
喉を鳴らす

『もう
頑張らなくていいから』
『もう
止めておくれ』
誰もが
そう思った

その時

カナリアの
身体が
ふわりと
ほんの
少しだけ浮き

僅かに
悲鳴のような
声を発した

そして
それを最期に
カナリアは
冷たくなってしまった

カナリアは
村人に
一体
何を
伝えたかったのか?

本当のことは
誰にもわからず終い

ただ
村人は
大人も
子供も

一様に
瞳に涙を湛えていた

一夜が明け
村の
臨時集会が行われ
次のように決まった

■臨時集会決議

1.皆で力を合わせ
美しい村を
もう一度取り戻す

2.皆で力を合わせ
村で一番
光の当たる
小高い丘に
カナリアを埋葬し
そこに
カナリアの像を建てる

力を合わせた
村人たちが
美しい像を
丘に築き上げるのに
大した
時間を必要としなかった

村を見下ろす丘の
一羽の
美しい
カナリア像

その先で
子供の笑い声が
一つ
生まれた
二つ
生まれた

少しずつ
少しずつ
村が輝きだす

さて
村人は
この像に
名前が
ないことに気付いた

そこで
名前を
付けることになったのだが
すぐに
その名前は決まった

カナリア像は
全員一致で
『希望』と
名付けられた




■あとがき
希望のカナリア
リメイクして
白い童話入りさせました
http://ameblo.jp/zakuzakuoji/entry-11014226643.html

白い童話シリーズ
背景にある
一連のペーソス(pathos)を
持つ作品です

絵を描いてくれている
SUIREN親方
あっさり
この童話の
一種の秘密に
なんとなく気付き
絵に
その要素を
組み込んでくれました

親方のメールより抜粋

『なんとなく
「祈り」と対になる感じで描きました。
左がカナリア 右が祈り ってかんじかなー。
SUIREN』

これは
童話・『祈り』の
流れを汲む作品です
http://ameblo.jp/zakuzakuoji/entry-10661468202.html

そうだなぁ
このカナリアは
祈り』に出てきた
小鳥の意志を
継ぐもの

或いは
次元を超えて
小鳥自身と言っても良いかな

童話・『祈り』は
あまりにも人間が愚かで
救いがなくて

あまりにも
未来が寂しいし

人間にも
自立してもらわないとなぁとか
少しは自分たちで
何とかして欲しいなぁなどと思い
いつか
救いのある
続きみたいのも
必要だよなぁって

そんなこともあって
童話・希望のカナリア
プロトタイプで
書いてみたという感じです
(書いてた時
あまりにも眠くて
後で再構成!って思って
居眠りしながら
とりあえず
書きなぐった)

それにしても
このカナリア。。。

少年との約束を守り
祈り』の少年の
犠牲を無駄にせず
また
特異な能力を持つ
少年にさえ
成しえなかったことを
やってしまったのかも

『自分たちの世界は
自分たちの力で
創り上げるものであり
希望を持ち続ければ
必ず
世界は再生する』
みたいなメッセージかな

そうそう
このカナリア

今頃
きっとどこか遠く
静かな森や川のある大地で
穏やかに
暮らしていることでしょう

もちろん
祈り』の少年と一緒です

空いっぱいに
美しい声を響かせ
素敵な
優しい風に
吹かれて
(文:xiro)



やがて終わる世界に

誤字・脱字があったら
こそり教えてください
修正します(xiro)

■初稿 2011.10
■冗長修正 2016.1