今大丈夫だよ
という時にはお客はこない。
忙しい時ほどお客は来る。
そうボソボソとお客と話をするマスターがいるバーに来ていた。
東北地方のとあるバー。
ローカル線とレンタカー、そして飛行機、さらにローカル線に乗り、ようやくホテルにチェックインできた時、23時を回っていた。チェックインする際、ホテルの中にバーはありますか?と尋ねるも、珍しくハイクラスなホテルに宿泊するのに「ありません」との答えだった。残念な気分だった。目まぐるしい1日だったし、こんな日は一杯だけでもウィスキーロックを飲めばすぐ眠れると思った。
以前にもこのブログで書いた覚えがあるけれど、人は高速移動で疲れると思う。たかだか1時間くらいのフライトであってもだ。その日も合計8時間くらいは移動していた。距離にしたらどれくらいだろうか。800キロとかだろうか。ほぼ毎日移動しまくっているけれども、やはり高速移動、特に飛行機は乗っている時間以上に、肉体疲労するのではないだろうか。
そんな事を考えながら、とっても暗い、アルコールのボトル達だけがライトアップされたバーのカウンターで、私はラフロイグのハイボールを飲んでいた。
バーには色んな人がやってくる。まさしく宿り木のように集まってくるのだ。だから独りでも面白い時がある。
別段、聴き耳を立てていたわけでは無いけれど、熱心に話をする男女のひと組が私の座るカウンターの端にいた。
「徳をつまないとね、虫とかアリクイとか昆虫とかに生まれ変わるのよ」
「徳を積むと人に生まれ変われるみたいなのよ」
ちょっと大き目の声で、徳を積む事の大切さをお酒のせいもあってか一緒に座る男性に熱心に話をしているようだった。
数時間前に、仕事で見えない世界の話をしていた私にとって、その手の話はなんか・・・非常に疲れるものだった。思わず、心の中で突っ込んだ。
「人はまず、人にしか生まれかわらないよ」と。
「そもそも徳を積むってなんだよ」
聴き耳を立てるつもりなど全く無かったけれど、さらに何とか和尚の話を一生懸命にしているようだった。
私は、ライトアップされて浮かび上がるウィスキーボトル達を眺める事にした。
(あ〜!)
(珍しいお酒も置いてあるぞ!)
(竹鶴17年もある〜!)
「すみません、竹鶴17年をロックでお願いします。」
私はグラスを忙しそうに、でも静かに洗っているマスターに声をかけた。
いま大丈夫だよという時にはお客はこない。
忙しい時ほどお客は来る。
確かに人は人が集まる場所に集まるよね・・・。
もしかしたら、私はお客のいないバーで静かに飲みたいのかもしれない。気を静める為に。
シックスセンス管理人