10月20日発売ロッキン・オン・ジャパンに掲載(掲載号の次の号が発売されましたので全文掲載いたしました。12月2日)


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夏の終わりの5秒前の午後ーSUPER BUTTER DOG ラストライブ the good-bye 日比谷野外音楽堂


特集番組を見て「やっぱりいいじゃんこのバンド」と思い、ちょっと行く気になったのだ 。
だから、チケットも取れていないし、オークションで競り落そうという程の気持ちもない。
けれど、ライブ前日に見た、ある映像が、私を日比谷野音に駆り立てていた。
その場に居合わせなければ意味がない。
映像には、自分の視界には入り得ないものも映っている。気の済むまで繰り返し愉しむこともできる。
でも、あの時の、 40分もの待ち時間を過ごしたモッシュゾーンでの気持ち
アーティストの登場に咆哮するオーディエンスサプライズを宣言するアーティストの、思わせぶりな、そして弱冠の緊張が漲る声
思わずステージに殺到する衝動
そんなものは勿論記録されてはいなかった。
「日比谷野音である限り、当日券がある筈だ。」という持論(?)に従い、「今回は無理かも」という予感には目を瞑り、日比谷へと向かう。
「ダメだったら、明日オープンするという話題のあの店を拝んで帰ろう。」と思っていた。そんなもんだった。

明日訪れる最高の瞬間、この時に知るよしもない。

会場についてスタッフに尋ねてみれば、予想通り、当日券はなく、しかし、会場の外で聴いている人の数は予想以上だった。

「会場外でゆっくり楽しもう。」そう決めて、売店等を物色し始める。
売り子の掛け声、カップルのおしゃべりをバックグラウンドにサウンドが流れる。
熱に浮かされた様な人はいない気持ち良さそうにリズムにのって揺れている人がいるだけ
車椅子に乗った人が、野音の外で、ライブを聞いていた。
松葉杖を横に置いて、植え込みに腰掛けて曲に聞き入っている男性がいた。
家族連れもいる。お父さんは缶ビール片手に音にのって揺れているけれど子供は退屈そうに本を読んでいてワンピースを着た奥さんは所在なさげに、空き缶が並んだ新聞紙の上に体育座りで小さくなっている
辺りは暗くなってきて 、公園にスローな歌声が低く響き、 人々は内側に熱を篭らせている。
もうやきそばもビールもどうでもよくなって、ただ空を見上げて聴き入っている。
スローな曲をバックに和んでいた客達も、ゲストの登場と「見せてみな、素敵なツラを」と煽るMCに
レスポンスする人 、立ち上がって、手を振り上げる人だんだんと入り口前に人が集まってくる 。

笑顔で、笑い声で、呼び掛けに応える客になれない野外音楽堂の外の人々

そして♪伝えたいことが君にあるけど 喋る勇気が僕にはなくて 明日こそはと近いを立てたのが地球最後の日 5秒前の午後

アーティストと観客が薄暮の中で、互いに魔法をかけ合う瞬間
再現しようとしても不可能な錬金術の果てに、この日この場に黄金に輝くひとときが生まれた。
「FUNKYウーロン茶」の長い長いMCに会場内が沸く中、場外では「流し込むだけ」とコールが続き、夜の公園で皆が踊りだす。
コールをリードする者が現れる。女の子はサンダルを脱いでステップを踏んでいる。隣でくるくると軽やかに踊る女の子に、「私、ひとりで来たんです。」と話しかけられた。
いつの間にか、退屈そうだったあの家族連れの母と娘も手をとって踊りだしている。
植え込みに腰掛けていた男性は、声を上げ、ついには傍らの松葉杖を取り立ち上がった。
騒ぎを聞きつけたのか、カメラマンも撮影に現れ、宴は最高潮となる。
撮っているスタッフの笑顔は聴衆への賛辞である筈だ。

約束なんかはないけれど と唄ったのは誰だったか

あてどなくこの場にやってきた数寄者達が音に酔うこの瞬間 、この空間は、今夜を最後に二度と現れない。

犬達は唄う。♪涙こぼれたら 流し込むだけ

ここに集う者達には辿り着きたいその刹那が見えている。

この解散は、「正直過ぎる」 と 「みっともないほどありのまま」だと称されている。

この夏、活動無期限休止を宣言したあの巨星、サザンオールスターズの桑田氏は、「どんな大きなグループも活動休止や解散を経ている。 サザンという屋号を背負って次のアルバムを出すには、活動休止が必要だと考えた。」と数々のインタビューで語っており、「サザンの良心は原坊 彼女の存在がサザンをサザンたらしめている」という、心温まるコメントを残しているが、それではこの犬達の良心は何か?

バタ犬の良心は「さよならCOLOR」である。

♪本当のことは見えてるんだろ その思いよ消えないでと歌ったあの曲を産んだことで「本当でないもの」を、この犬達は認めることができなくなった。

マジックを産まなくなった自分達のつながりが本当でないと感じるようになったのだ。

グループの中で対立が起こらなかったバンドがどれだけあるのだろうか?大きすぎる金を得て、心を蝕まれる者を生まなかったバンドはどれだけあるのだろうか ?
その中で 、「もうこのグループの中では、マジックが 起きないから」と解散(それも2度目)をするバンドがかつてあっただろうか?
かっこ悪いことであろうとも潔く 自分の求める刹那の為に あっさりと 大きなものを捨て去る。なんと格好の良いことか 。

だからこそ、ここにはこんなマジックが起こるのだろう。そんなにファンだった訳じゃないだから、この日この時この場で聴いた 「さよならCOLOR」 に初めて語りかけられた気がした。

この日この場に居合わせたしあわせな私達が彼等に贈ったヴァイヴスは、我ら五体に染み渡る詩となって、この身に還流したのだ。

最後の歌声が流れ出した時、売店の売り子すら声を潜めた。

家に着いてラジオをかけると「地球最後の日、5秒前の午後 」が流れていた。

野音で聴いたあの歌声が、既に進化形であったことを知る。

パーソナリティーは語る 。「この曲を、あなたねー、夏の終わりの日比谷野音で聴いて御覧なさい?」そして「『サヨナラCOLOR』を、バタードッグの本当の最後の日に野音で聴いてご覧なさいよ?ファンになりますよ。でも解散ですよ。」
「いいバランスの5人が出会って、バンドの化学反応が起きて、バイオリズムというか、そういうものが、あって一番いい時にできたいい曲、それも化学反応  それをいい環境で、ライブで見て お客さん側として共有できる、それもその時にしか起きない化学反応じゃん!」

「解散するってことは、もうこの化学反応は生では見られない何かおっきなものが通り過ぎてく感じがする。もうこの凄い空間は味わえないんだなと思いながら、刻一刻と時は過ぎてく訳じゃない。こんな解散の仕方をするグループはなかなかないよね。一旦活動休止して、ライブしたら良くって、また活動することにしたけれど、あの化学反応はもう起きない。 あ、もうあの化学反応は起きないらしいと、また、解散してしまう彼等を『あんな正直な解散の仕方をする人たちはいないよ』と評したアーティストがいるけれど、そんな人たちが作る「サヨナラCOLOR」だから凄い 。あんな正直なさよならはないよ。しかるべき時に聴けば、猛烈な破壊力を持つ曲だってことを今日俺は思い知った。 ありか~!そんなの!最後は『サヨナラCOLOR』では終わってないんですよね。そのチョイスは大事だと思うんです。  SUPER BUTTER DOG、最後の曲、最後に演奏した曲 『あいのわ』 最後にひとこと言わせてくれ、 解散おめでとう。 」


♪ホントのことは見えてるんだろう その思いは消えないで その思いはボクに見せて




ライブはひとめも見ていない。

プライスレスってこういうこと





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ポッドキャストのリンクを追加しておきます。2009.2.2

http://www.tbsradio.jp/utamaru/2008/09/post_327.html