2009年1月号 ROCKIN'ON JAPANのJAPAN REVIEW(212ページ)に採用されました。

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目覚めた時に、あの放熱は夢だったのかと思うライヴがある。
ライムスターが街にやって来る。
活動休止中のライムスターが地方でのみライブを行っている。なぜだろう。彼等の真意はどこにあるのか?
そんな彼らが地元のクラブにやって来る。
地元の面子が大量出演 、クラブの様子もわからない。
けれど、「ウチの若いモンが、ライムスがライブに来ると騒いでいるんですよ。」とのウワサ話を馴染みの美容室でまで聞くに及び 、人生初、深夜クラブイベントの前売りチケット購入に奔走することとなった。
大手コンビニで取り扱っているチケットは既に完売しており 、イベント会場であるクラブのHPに掲載されていた番号に当日、駄目で元々と電話をしてみたところ「前売りが売れ過ぎているのでチケット販売を控えているが一枚なら融通できる」との丁寧な応対を受けた。
指定された夕刻に教えられた場所に出向いてみると、そこは予想していたチケットショップではなく古着屋の店頭であった。それ程 街が 一体となっているのだ。HIPHOPの名の下に。
一旦自宅に戻り、深夜出直すこととする。目当てのライムスターの登場は深い時間に違いないと思いつつ、駅前のファミレスでコーヒーを頼み閉店24時には店を出て、クラブに向かう。時間を潰せるところなどないのだ。
繁華街というよりも住宅街、駅からは少し距離がある。どちらかと言えば寂しい場所であったと記憶していたクラブの前は様変わりしていた。
遠くからもはっきりわかる人の行列しかも、2列に分かれた行列の一方は、当日券を待つ人の列なのだ。彼らは、結局これから数時間、吹きすさぶ風の中待ち続けることになる。
列に並んでいた友人に声をかけてもらい、一緒にクラブに入る。予想以上の混雑ダンスフロアには踊れるスペースはもうどこにも残っていない。
ビートが単調に流れるだけで、踊れる曲も聞こえてこない。
フロアの一角であるバーカウンターでは、ルーレットを回し「テキーラを美女に飲ませてもらう」サービスで喚声が上がっていた。
の光景に、「ここに集まっているのは地元のクラブ好きで、ただ単に、地方に来た有名アーティストを見物に来ているのだ。 」と感じていた。いつもの、音楽好き、ダンス好きが集まるイベントとは違うのだ。と・・・
友人と二人、死んだ目をして、ライブが始まる瞬間を、ラウンジのソファの上で待つ。たまにかかる踊れる曲に「さっきのNE-YOをもう一度」等と茶化しながらふたりともどんどん無口になってゆく。
そこにいる誰もがライムスターの登場を待ちわびていた。
もう一組のゲスト、「サイプレス上野とロベルト吉野」が始まったところで慌てた私はひとりフライングしてしまう。
大混雑のメインフロアに戻り、人の波を前へ前へと掻き分けて進んでゆく。
正面のいい位置にポジショニングしてしまったのでこれまた予想通りゴリゴリの強面B-Boy達が、両脇に女の子を抱えて、人の波を蹴散らしながら、背後から迫って来る。
しかたなく、後ろへ下がることにした。
サ上とロ吉のライブが終わり 、「さあ、次 」と思ったところで「地元ナンバーワンDJ」が登場する。
そしてここから、気が遠くなる位、ライブまで待たされることとなった。
誰も踊らず 誰もその場を離れない。誰も声を上げない。息を吸い込むと咳き込む。スモークとともに天井から吐き出されるアロマにむせ返る。秋の深夜のクラブで、汗で目を開けていることができなくなっている。私は群集の中でただ立っているだけなのだ。この熱はなんなのだ。くらくらしながら、「分別をもって、この場を立ち去るべきか」等と煩悶しているとやっと やっとDJ JINが、ステージに登場
時刻は既に3時半 オーディエンスの期待も最高潮で、皆が無言であるのが逆に脅威である。 
実は、急に人が殺到するのではないかという心配のあまり、曲がかかる瞬間を恐れていたのだ。
壁を背に出来る様に、少し移動してみる。しかしJINさんの「 ザ キング 」という、あの声がかかると群集の中で、力を誇示していた輩は消えうせ全員がリリックを完璧に大合唱
mummy-Dは、「俺達これが見たかったんだよ」と
オイ!においては、合いの手がカンペキ
ロイヤル・ストレート・フラッシュにおいては Jack Queen  King  Ace  と皆手を掲げてカウント
「肉体関係」のKenさんのパートは残らず客が歌ってしまう。·
B-BOYイズムは、客の歌声ばかりを聞いた気がする。さっきまでのブキミな無言の群集はどこへいったのだ。
ほぼ「封印」曲かと思っていた「耳を貸スベキ」 が披露され、ライムスターも客の熱にうたれていると感じた。
彼等は前日のZEEBRAの武道館ライブの熱を持ち込みSTREET DREAMのトラックをキングオブステージのリリックで歌うという大技で最後を締め括った。
ZEEBRAの軌跡を「スターとしての責任を負った」と後日宇多丸氏は語ったが
この日の彼等はキングの称号を背負い、彼等のクラシックをもって、歴史を語り、
その重責を果たした。
彼等は、武道館で、「武道館でも場末の小さなハコでもやることはおんなじだ。」と咆哮したがその通りだった。
小さな町のクラブで行われた深夜ライブで、彼等は惜しげもなく力の全てを見せてくれた。

先日行われたワンマン武道館ライブを前にしたいくつかのインタビューでZEEBRAは繰り返し答えている。
「衝撃を受けたのは、NYでホームレスの為のパレードを先導する憧れのヒップホップミュージシャンの姿だった。」と

彼等は、俺達ナンバーワンだと、狭い音楽ジャンルの中で、叫んでいるのではなく日本のムーブメントを先導していきたいのだ という、というわかりきった答えに辿り着く。

午前3時半開始 4時半終了クラブイベントにはありえない、深い時間での1時間ものライブ外に出ると、汗をかいた身体に、冷えた空気が心地よい。
「風邪をひくかも」と心配になる。クラブイベントは、パワーをもらうけれど、体力を奪われるやっかいな代物だ。

ライムスターの武道館ライブは伝説となった。「俺達が欲しているのは金じゃない。」と放った言葉に、客席から返された「RESPECT」という鋭い叫び
次の活動へ向けて、休止中であるにも関わらず、地方ライブを続けるのは、彼等の心の焔を再び点す為であることを、この熱気の渦中に身を置くことによって、理解できた。

深夜イベントの魅力は、アーティストが目の前にいることで あり、その息遣いと人間性を自分の目で確かめることにある。だからこそ、HIPHOPは、音楽の一ジャンルではなく ムーブメントとして存在することができるのだ。

この列島はヒートしているのかもしれないが、私達は心身ともに、冷たく凍えている。けれど今夜私は確かに 、小さな町で深夜、あかあかと燃える焔を見たのだ。




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