飲み干したかったミルクシェークとは、本当は何であったのか?


今年一番だと思うこの映画は、西部劇でありホラー映画でもあるのです。
もし、私が最初にそう説明したとしたら、文句なしのトップ作品である本作にも関わらず、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」を思い浮かべる人は少ないのではあるまいか?
監督がホラー映画として作ったと明言しており、カウボーイハットを被った主人公達が、フロンティアを開拓していく話である。間違いない。けれどこの映画に惹かれる人々は、そんな物語の外側にはあまり関心を払わない筈だ。
彼らの時代の遠い将来である現代、極東の小さな島国で、馬に跨り荒野を駆け巡る彼らの物語を共有した私は、主人公の中に己の姿を見出した。
燃え盛る油田の焔を見つめながら主人公はひとり呟く。「私には人には見えない闇が見える。」 この冷たい物語の中で、あの空を紅蓮に焦がす焔だけが、唯一微かに信じられるものの輪郭だ。
愛することと憎むことは、表裏一体であるとはよく言われることであるが、そう言いつつも、人というものはこの二つを遠く対極に位置するものと考えている 節がある。 善と悪は、それぞれ解り易い姿をしていた方が生きてゆく上で簡単で都合がいいと多くの人が思ってしまうものだ。 確かに世界は単純な方が都合が良いので、人は心の奥底に引っかかった小さな刺を飲み込 むことを憶える。 そして単純な世界で、シンプルな幸せを掴みたいだけだったのに、多くの人は逃れられない人生の陥し穴に落ちてゆくのだ。
ラストシーン の舞台は「城のようだ」と語られるボーリング場まで備えた途方もない豪邸だ。それは、「石油で充分な金を稼いで誰にも邪魔されずひ とりになりたい。」と主人公が本気ともつかぬ口調で語った哀れな夢の結実だ。そこへ、金欲しさに尋ねて来た伝道師に主人公は詰め寄る。伝道師がその醜い正体を晒すと、孤高の主人公はあの伝説となったセリフを宿敵に浴びせるのだ。


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