母親が愛したキャラクターに心惹かれたのは、何年も前のこと。


スカーレット・オハラ


アメリカの南北戦争に翻弄されながら、強くしなやかに、美しく生きた人。
普通の幸せを掴むために悪戦苦闘し、結果・・・・・全てを失った人。
それがフィクションだとは勿論知ってはいるが、それがわかっていても引き込まれる魅力に溢れた女性。
原作を元に当時にしては巨額の制作費を投じて作られた名作の名前を欲しいままにする「風と共に去りぬ」その主人公。
絶世の美女と謳われ主役を演じた女優を母親は愛していた。
それこそビデオの時代テープが擦り切れる程の入り込みようだった。
母親と過ごすことの多い時期に一緒になって見ていた俺も、その苛烈さと奔放さに驚きを隠せず、そして惹かれていった当然のことだろう。

野心的でしたたかで、ドレスのセンスが悪い、でも決して憎めない奔放さ。
華やかに、自由に、生きることが似合う。
そんなキャラクター。
タイプか、と問われたらすかさずに否定する。
彼女のような女性は、相手役のような獰猛な男にしか手に負えない。
だけれども、男性の影に隠れてしまうような女性には・・・・今まで一度も心を奪われたことはなかった。
それは劇中であっても、現実世界においても。


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実家に帰っては、母親が飾るポスターを見てその存在を思い出す程度だった。
だたこの春、偶然通りかかった会社の資料室で聞いた独り言に、スカーレットの強い眼差しを思い出した。
声質だって違うし、言っている内容だって過激ではない。
むしろ押し付けられた仕事をどう的確に且つ、素早くこなすかというプランニングは、いたって真面目で大変好印象を持つものだった。
持っている缶コーヒーが無くなるまで。
それまで、幼少期に惹かれたキャラクターを思い出させてくれた女性社員の独り言を背中で聞いていようと思った。
それは、運命だったのかもしれないし、疲れからくるただの気まぐれだったかもしれない。
それでもその行動で・・・・・俺は本当の彼女に出会えた。


缶コーヒーが半分になる頃に、誇りを被った資料を指示通り纏めるには一週間以上掛かるだろうという見通しが彼女の中で出される。
しかし、今日の手順の無駄を考え改善しなんとか今週に仕上げると意気込む姿勢は、うちのアシスタントにも見習って欲しいくらいガッツに溢れていて、思わず微笑んでしまう。
そして彼女の発する上司の名前から所属の部署が推測出来、缶コーヒーが最後の一口になろうとした時、彼女の独り言はその上司の口真似で名前を知った。

『<最上くん、君なら出来るよ>じゃないわよ。あー、部門共通の資料作成は家に持ち帰りねぇ』

30分程度掛け、ゆっくりと缶コーヒーを飲んでいて始めて彼女がこぼした愚痴とも取れる言葉が、電流のように脳内を駆け巡る。

最上という名前。
そして力量のあるものにのみ任される、部門共有の資料作成。

その二つを結びつけるものは一つでしかなかった。
一年前から存在だけを知っていて、その手腕に惚れたとさえ言ってもいい人。
ただ特段探さずにいたのは、彼女と所属する部門が違っていたから。
一緒に仕事をしたいと願っても、決して現実にすることは出来ないのだからと自分の忙しさを言い訳に直接のコンタクトを取らないでいた。
しかし関節的にではあるが同期を通じ、入手する作成した資料は、どこに出してもおかしくない程完成されていて、充分に評価されて然るべきもので、彼女を知るきっかけになった部門共有の資料作成を担う編成チームに入っていることは当然の評価だとその度に改めて思う。

幼少期に心惹かれた惹かれたキャラクターの強い眼差しを思い出させ。
部門が違えど一緒の仕事がしたいと渇望とも言える想いにさせた女性。

反射的に振り返ってしまったのは、致し方ないだろう。
そして一口残ってしまった缶コーヒーを落としてしまった姿を見られなかったのは、本当に良かったと後になっても思う。







振り返って盗むように見た最上キョーコという人の横顔に、恋した瞬間なんて誰にも見られたくない。








窓から差し込む太陽を浴びながら、楽しそうに微笑む栗毛色の彼女。
勝気で傲慢と評されるスカーレットとは似ても似つかないが・・・・
的確な仕事ぶりや感情豊かな声、伸びやかな雰囲気が俺の中で重なり合うようだった。
カランと落とした缶を拾い上げ、この時の俺は自分でも初めて感じる気持ちの変化を持て余しながら約半年以上過ごすとは・・・・夢にも思っていなかった。
それだけ最上キョーコという人のガードが硬かったわけだが、後から聞いた話で本人としては特に意識していなかったという一言に少し肩を落としたことは、彼女にも言っていない。

ようやく声を交わせると思った交流会で何故だかひたすらにジンジャーハイボールを煽る彼女にやはり声を掛ける隙はなかった。
口当りのいい酒は、後で後悔する。
そんなことを忠告出来るような仲になっていなっかったことを悔んでいたら、彼女が倒れ込んできた。
その時、男を見せてみろと、劇中スカーレットに恋した獰猛で苛烈な男 レッド・バトラーの冷笑が浮かんで消えていった。
そして俺は、人の良い笑顔で香水の海から脱出した。











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大好き過ぎてDVDも持ってます。
ご存知でない方はWikipedia先生へ。
純情可憐で受け身なキョコさんも好きですが、彼女の柔軟性さと心の強さはきっとスカーレットに通ずるものがあるのではないかとry・・・・・って言い訳してみますw
二人とも猪突猛進で、恋愛には不器用だしね(´人・ω・。)←

次回は限定!!アメバ内で収まるように表現したいと思うのです。

昨夜の話をする前に、と前置いて語られたのは、私との出会い・・・・らしきもの。

どうやら次の春には彼は課長になるらしい。
そんな内々示を私に伝えて良いのかとも思うが、この春決定したそれは年齢の若い営業を部門全体でバックアップしていく、といった趣旨から彼の所属する第一部門では周知のことだそうだ。
敦賀さんの年齢での課長職というのは、小さな会社ではまかり通るかもしれないが、いわゆる一流企業と評価されてもおかしくない我が社ではまずあり得ない。
準備期間一年と考慮したとしても、彼に対しての上の評価というのは重圧にも等しいのではないだろうか?と心配になるが、それすら受け入れて胸を張れる成績を出しているこの人はきっと超人なのだろう。

「君に気が付いたのはずっと前からなんだけど、最上さんを知ったのは最近なんだ」
「なんですか?その謎なぞ」

全く意味がわからない。
彼の前に正座した私の体内からはジンジャーハイボールの濃度が薄くなって、思考が正常を取り戻しつつあるけれど、彼の言葉の意味は見えてこず理解に苦しむ。

「全部門共有の資料、作ってるだろう?」
「はい、自分の担当の部分だけですが」
「まずその資料の見易さに興味を惹かれたのが2年前」
「・・・・・」

月に一度展開される本社共有の資料。
光栄にもそれの一端を担い始めたのは、入社2年目。
編成チームは各部門5名で構成され、各部門の営業利益から粗利、その成功点や問題点を浮き彫りにしていき、他部門での理解度を深め、その知識の活用を期待するという趣旨のものだった。
てっきり上層部ですら目を通していないだろうと思っていたものなのに・・・・やっぱり30歳を前にして課長なろうという人はすることが違う。

「表の使い方や説明の語句にどの部門のものよりもセンスがあるなって思って、そのページを作った人に興味を持った」
「そんなとないですよ」
「実際俺も参考にした点が何箇所もあるくらいだよ。入社2年目で考えられないくらいだ。過小評価は良くない」

過大評価も良くないけどね、と静かに釘を打つ顔は私が見知っている、会社の顔だった。
それは彼の中で正当な評価なのだろうが、あまり褒められ慣れていない私は居心地悪く感じられてしまう。

「ありがとう、ございます」
「いいえ、どういたしまして。その他にも何点か資料を手に入れる機会があってね、もう、いつ第二部門に移動しても問題ないよ」
「第一部門が手放しませんよ?」
「いやいや、わからないよ。最上さんのデータ作りの腕と一緒に仕事が出来るなら嬉しいし」

思いも掛けないところで仕事を評価されて、段々と現実として受け入れられるようになると思わず浮き足立ってしまいそうになる。
嫌味に聞こえない言い方に、きっと敦賀さんは私と同じ営業アシスタントの子に対して仕事をきちんと見て、きちんと評価を付けているんだろう。
うちの部門の営業にも見習わせてやりたいものだ。
しかし、そこから先が今の状況と結びつくとは思えない私は小首をかしげてしまう。
それを感じたのだろう敦賀さんが浮かべた笑みは・・・・
春の日差しよりも穏やかで、本当に蕩けるようなものだった。

「最上さん自身を知ったのは、そこから丁度1年」
「え?」
「今年の春、資料室で見つけて惹かれたのかな?」

最後を疑問系にしたのは照れ隠し。
そんなことを後から聞いて、全く覚えていなかったけど、また明かされた意外に可愛い一面があるのだとし少し大人になった私は思うのだが、今現在を生きる私はそれどころではなかった。

「スミマセン、敦賀様。全く話が見えないのですが・・・・・」
「そう?でも充分に下地はあったと思うんだよね」

曰く、人に興味を持つことの珍しい自分が、データ越しにといえど気になった人間で。
尚且つ、雑用の中の雑用といわれる資料室の整理をしている時に話していた独り言で、私が最上キョーコだということを知り、更にはその作業が何日掛かるという作業量だと知ったそうだ。
そして、時間のある時に資料室を覗いては、私を観察していたという。
確かに埃まみれになりながら、ほぼ一週間膨大な資料と向き合ったのは記憶に新しい。

「・・・・・・少しは、手伝ってくれても良かったんですよ?」
「うん?やたらテキパキしてて入ったら邪魔になるかなと思ったし、その時は最上さんの独り言を聞いていたかったから、声を掛けれなかったんだよね?」

しつこいようだが、後から聞いた話。
やっぱり最後を疑問系にしたのは照れ隠し、なのだそうだ。
ほぼ始めて人に向けた好意という感情を持て余し、ただただ佇んで時を過ごしたと、時間がある程度経過してから言われても・・・・・と感じるところであるが、器用そうで不器用な彼らしい。
しかし全くその感情を汲み取れなかった私は、なにを言ったのか全く覚えていない独り言を考えては恥ずかしさに顔を赤くする。

そしてどう私と知り合うか考えあぐねていたら、丁度良く訪れたのが昨夜の二次会。
一次会の趣旨が部門交流なら二次会もそれに倣おうと、体良く発案し、私が話をしていたグループもそれに引っかかったらしい。
そして敦賀さんに倒れ込み意識の失った私を、責任はきっと自分にあるからと連れたって出て行くことで、これ幸いと香水むせ返る女性の集団から逃げ出した。

聞けば聞くほど異次元の話をしてるんではないかと、目の前の敦賀さんをまじまじと見てしまう。
私ばかりが一方的に知っているだけかと思ってた。
それはそれで、なんだか嬉しい。
社内の有名人に人として認知されることを嫌う人間はいないだろう。
でも、だけど。
それでも、彼と私が付き合うという流れになるのは納得がいかない。
酔っていたからといって、皆が憧れる先輩だからといって、易々忘れるはずはないのだ。










「愛」や「恋」を求めていた頃に付いた傷を・・・・・
今でも、ジュクジュクと疼く傷を・・・・・
私が、忘れるはずがない。














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ビックリするほど話が進まない!
設定の説明が細かすぎるのかー?(´;ω;`)
そして蓮キョじゃない気がするー!!!←最大の問題
てんさん、皆さん・・・・ついてこれていますか?