『失ってはじめて気が付く』とか、よく言うけど。
この歳になったら、さすがに大切なものはちゃんと分かってると思ってたし、大切なものはちゃんと大切にしてきたつもり、だったんだけど。
家族でも恋人でも友達でもない不思議な関係。
かけがえなのない仲間ってことは、じゅうぶんに分かってたのに。
お互いに新しい1歩を踏み出して、テレビの中の君を見ては、あの隣にいるのは俺だったのにな.......なんて思ってみたりするのは、なんでなんだろう。
『しょーちゃん、お誕生日おめでとー!』
「ありがと。今日も相葉くんからもらったパンツ履いてるから!」
『あはは!わざわざ見せてくんなくてもいいってー!って、俺も今日それだ!オソロだよ、しょーちゃん!』
「マジで?!」
『ほんとほんと!ほら!ね?さすが俺としょーちゃんだね!』
画面越しの笑顔に心があったかくなったり、君の些細な言葉が、とんでもなく嬉しかったりしてさ。
今までと変わらないのに、今までとは違う。
「.......あのさ、相葉くん.......」
不惑の1年前にして、めちゃくちゃ惑わされてんだけど、俺。
『しょーちゃん、何かあった?』
君の柔らかな声にまた心の温度が少し上がる。
「.......あの.......近いうちに会えないかな.......」
『くふふ!どうしたの?改まっちゃって!そんなの、もちろんいいに決まってるじゃん!しょーちゃんに会えるの俺もめちゃくちゃ嬉しいもん!』
冷静に考えたら、さ.......
40手前のおじさんが何をしてんのかって話だけど.......
『じゃあ、ぜーろー頑張ってね!今日もちゃんとみるからね!』
「明日も早いんだろ?無理すんなよ?」
『だぁめー!しょーちゃん見れない方がつらいもん!』
それなりに色んな経験も積んできたのに、なんにも役に立たねぇんだよな、コイツの前だとさ。
「ありがと。じゃ、今日も頑張るわ」
『じゃ、またねー!』
「おう、またな」
『.......』
「.......」
『しょーちゃん切ってよ』
「えー、俺?」
『あ、やっぱり寂しくなっちゃうからいっせーのせ、しよ!』
「ふふ、うん。分かった。じゃあ、またな」
『いっせーの』
「いっせーの」
「せっ.......」
自分の声しか聞こえないこの瞬間が、こんなに寂しいなんて知らなかったんだ。
俺の中で君の存在がこんなに大きかったなんて、想像以上だったんだよ。
「さて、気合い入れていきましょうかね、今日も」
まだ耳に残る君の声を聞きながら、大きく伸びをして立ち上がった。
おしまい
あー、お誕生日過ぎちゃった💦