「.......先輩、部活は?」
「あー、今日は休み」
制服に着替えて部室を出た俺の隣を当たり前みたいな顔をして櫻井先輩が並んで歩く。
「サッカー部、やってましたよね?」
「うん。俺は休み」
「.......それって、サボりですよね?」
「どの口が言ってんの?」
「ふみまひぇん」
顎をむぎゅって掴まれて謝った俺を見て『ひでぇ顔』って笑った先輩が、急に優しい笑顔になって俺の頭をポンポンって叩いた。
そんな一気にいろんな表情されたら、俺の感情がまたぐっちゃぐちゃになるじゃん。
今日も校門のところにたくさんいる女のコたちの前を通り過ぎる。
先輩は全然気にしてないけど、やっぱり女のコたちの視線がちょっと痛い。
「.......先輩もこっちなんですか?」
「あ?あぁ、こっち」
改札を抜けて、ホームへ上がる階段も先輩が隣を歩いてて、先輩の左手はポケットに入ったままだけど、俺の右手と触れそうで触れない距離にずっといるから、なんだか無駄にドキドキしちゃう。
無言のまま階段を上って、ちょうど真ん中あたりまで上ったところで、先輩の肩が一度大きく上下に動いて、左手がポケットから出て俺の前に差し出された。
「?」
「電車、来るって。急げよ、ほら」
これは、つかまれってこと?
どうしたらいいのか分からなくて、動けずにいたら、しょうがねぇなって顔で振り向いて、俺の手首を掴んで引っぱる。
いやもう、ドキドキがドキドキすぎて、どうなっちゃってんの、俺?って感じだけど。
電車に乗り込んでも、俺の右手は捕まったまんまで……
「こっち、来い」
ドアのすぐ横に立たされて、先輩が目の前に向き合うように立つ。
.......なんなの、これ。
まるで彼氏と彼女みたいじゃん。
普通、男どうしでしないよね?こんなこと。
俺のこと、何だと思ってるんだろ?
背だって先輩と大して変わんないし、細いけどそれなりに筋肉だってあるのに。
俺のことをからかって遊んでるだけにしては、たまに見せる顔がすんごい優しくて、もしかしてほんとに本気だったりして?とか思わなくもなかったり。
.......けど、やっぱり納得いかない。
昨日、夜の公園でキスしてた人は?
やっぱり、いろんな人とそういうことしてたりして?
だから、こんな風に誰にでもこういうこと出来ちゃうんじゃないの?
「なに?」
「.......女のコにはこんなふうにするんだ?」
「は?」
「俺、女のコじゃないけどさ.......階段上がるのに手を差し出したり、こんなふうに前に立ったりとか.......あ、もしかして、無意識でやってます!みたいな感じだったりします?」
もやもやが広がって、無性に腹が立ってきて、ぶっきらぼうに言葉を投げつけた。
なんで俺だけ、こんなにドキドキしたりザワザワしたりチクチクしたりしてなきゃなんないんだろ。
「.......何が言いたいわけ?」
先輩の表情が険しくなって、声のトーンも少し下がる。
「.......そんなの、俺がいちばん知りたいよ.......」
今度は急に泣きたい気分になって、慌てて視線を落としたら、俺の頭の上で先輩が長いため息をついた。