向かい合って立ったまんま、無言で窓の外を眺める。
先輩は目の前にいるのに、見えない分厚い壁が目の前にあるみたいだし、知らない駅が突然たくさんできちゃったんじゃないかって思うくらい、なかなか家の最寄り駅までたどり着かない。
「.......お前ん家、どこ?」
「.......次の駅です」
気まずい空気のまんま、ぼそぼそと言葉を交わして、のろのろとホームに降りたら、先輩も俺の少し後ろをついて来た。
「.......先輩もここ?」
「いや.......違うけど」
会話が続かないまま、改札を抜けようとしたら隣で自動改札の扉が勢いよく閉まったから驚いて振り向いた。
「.......え.......?」
「うっわ、マジか!ちょっと待ってろ、チャージしてくるから!」
自動改札の扉の向こうで、先輩がそう叫んでから慌てて精算機へ向かう。
……どういうこと?
定期の圏内だから一緒に帰ってきたんだと思ってたけど、そうじゃないの?
わざわざ乗り越して来てくれたってこと?
「わりぃ.......」
恥ずかしそうにそう言った先輩の手からパスケースを奪い取った。
「おい!」
「.......え.......嘘でしょ?」
定期に印刷されてる駅の名前は、全然こっち方面なんかじゃない。
「何すんだよ、返せ、ばか!」
「先輩、なんで?全然違うじゃん、駅!思いっきり反対方向じゃん!」
「うるせぇな、返せって」
俺の手からパスケースを取り返した先輩がぎろりと俺を睨む。
「ねぇ、なんで?」
「うるせぇ.......どっちだよ、家」
「あ、こっち.......って、家まで送ってくれんの?」
「.......そのために来たんだろ」
「まじで!わー!嬉しい!」
「なんだよ、お前!さっきは急に怒って、なんだか知らねぇけど、ひとりで勝手にふてくされてたくせに!」
「くふふー、ごめんなさい!でも、今はすっごく嬉しいから」
「お前、本当に訳わかんねぇな」
ぷい、と顔を逸らしてそう言うけど、さっきから言葉はすごくぶっきらぼうなのに言ってることはすごく優しくて、それで、耳が赤くなってるのが可愛いな、なんて思ったりして。
そんな先輩を見ていたら、さっきまでのモヤモヤした気持ちはすっかりどこかに飛んでった。
「先輩、でもダメですよ?本当は」
「は?」
「わざわざ家と反対方向の電車に乗って、送ってくれるとか.......そんなこと、やっちゃダメです」
「はぁ?」
「だって、そんなふうにされたら勘違いしちゃうでしょ?」
だってこれが、女のコだったら、さ.......
絶対惚れちゃうし、この人私のこと好きなんじゃない?って思っちゃうに決まってる。
「勘違い?」
「えー、無意識なの本当にタチ悪い~」
首を傾げた先輩に大袈裟にため息をついてみせた。