前々から日本政府のだらしなさは、周知の事実であったが、今回の原発事故で、それが白日のもとに晒された。もうどうしようもないくらい、どうしようもないのである。

それで、これは政治制度が悪いので、首相公選制にしようとか、中選挙区制に戻そうとか、そういう声が出ている。しかし、中選挙区制は嫌でたまらないからやめたのだし、首相公選制は、イスラエルの事例があるように、そんなに良いものではない。イスラエルも、日本のように不安定な政府に悩んで、政局を安定させるために首相公選制にしたのだが、議会が多党化し、余計に首相の力が落ちて、やむを得ず議院内閣制に戻してしまったのである。

日本では、リーダーが登場した瞬間だけ皆でお祝いして、翌日から手のひらを返したように糞味噌に言って揚げ足を取り、徹底的に妨害するという、非常に強い社会的傾向があることが明らかである。それはもう、どうしようもないくらい、強い力で作動している。これを何とかしない限りは、どうしようもない。

それで私は色々考えていたのだが、ついに名案を思いついた。

議院幕府制

これである。これで日本政府(改め日本幕府)は、機能するようになる!

何をどうするのかというと、大臣をやめて老中にするのである。老中の「中」は、中くらいの中ではなくて、連中の中である。江戸幕府では、将軍職以外の役は、ほとんどすべてが当番制であった。一つの役を複数の人が勤めて、日頃は当番で回していって、重要なことは合議するのである。

江戸幕府というのは、尾藤正英さんが指摘しているように、応仁の乱以来の長い社会的混乱の末に、外国の影響をほぼ受けることなく、日本社会の中から立ち上がった政権であって、その仕組は独創的であり、近世日本社会の需要にピッタリ合っていたので、長期に渡って安定していた。それゆえ、近代社会を、江戸社会の延長線上に発展させるのが合理的であって、江戸社会を否定してつくろうとするのはそもそも無理がある。

最大の無理が、首相をはじめ、大臣が一人だ、ということなのだと思う。それゆえ日本人は、誰か権力を持った人がトップで一人でいるということが、いたく気に入らないので、すぐに辞めろやめろということになるのである。これは本当に強い欲求で、戦争中でも猫の目のように総理大臣が入れ替わっていたので、アメリカはあきれ返っていた。

そこで、

総理大臣をやめて、総理老中
財務省と金融庁を再統合して、大蔵省に戻して、大蔵老中
経産大臣をやめて、経産老中
国土交通大臣をやめて、国土交通老中

という具合にすればよい。官房長官も複数にして「若年寄」にする。

何が良いのかというと、こうすれば、首相役も当番になり、二三ヶ月に一回、トップが入れ替わるので国民も安心し、引きずり降ろそうとしなくなるからである。それに、日本のお家芸の内部抗争が大幅に緩和される。さらには、誰かが外遊しても、問題なく内政を維持できるので、トップ外交が進展する。

また、各大臣にしても、たった一人で素人がお役人集団に取り囲まれるので、すぐに取り込まれて、役所の代弁者になってしまうのだが、数人で当番にすると、役人は困る。一人を説得して取り込んでも、すぐに別の人に入れ替わり、誰かが納得しても別の人は文句を言うので、そう簡単に抑え込めない。老中の側が数人で合議になれば、役人への指導力が生まれる。こうしてこそ、政治主導も可能になる。

こんなことをするには、憲法を改正しないといけないから、大変だ、というかも知れない。実は、そんな必要は、まったくないのである。憲法を見てみよう。

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第66条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
3 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。
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としか書かれていない。どこにも、内閣総理大臣は「一人」でなければならない、などと、書かれてはいないのである。

もちろん、GHQが作った英語版だと単数形になっているのだろうが、そんなことは日本国民の知った事ではない。日本語で書かれたものが日本国憲法であり、日本語では、単数と複数とを区別しないのである。それゆえ、内閣総理大臣役の老中(つまり数名の組)を国会が指名し、総理大臣役が大臣役の複数の老中を各省庁に指名すればおしまいである。明日にでも可能なことである。

そんなことしたら、与党から百人くらい老中が出るので、国会はどうするのかと思うかも知れないが、心配ご無用である。当番の人だけが内閣に行って、非番の人は国会に行けば良いのである。

考えてみれば、自民党の全盛期も、三角大福中といって、五人の政治家が総理大臣のポストをめぐって死闘を繰り広げ、世間の顰蹙を買い、みんなすぐに辞めてしまった。あの田中角栄でさえ、二年半しかやっていないのである。もったいない話であって、あの時代に、三角大福中、全員を、総理老中にして、輪番制の合議制でやっていれば、二十年くらい、政局が安定したことであろう。外交にしても高い一貫性が担保され、G7とかでも、日本だけ五人組で行けば、圧倒的迫力があったに違いない。

これで、日本政治は安定する。すぐにやるべきだ。民主党政権だって、トロイカ+2くらいで回せば、みんな納得するだろう。鳩山、菅、小沢、岡田、野田の五人でどうだろう。