乾シイタケから次々セシウムが出ている。朝日新聞の記事では、

「発端は東京電力福島第一原発から約300キロ離れた静岡県伊豆市。10月、販売業者が自主検査した干しシイタケから国の基準値(1キロあたり500ベクレル)の2倍の値が出たと県が発表した。この春に加工したものだった。県の再検査でも超えた。県は原発事故後に加工した伊豆市の干しシイタケの出荷自粛を決めた。」

とのことだった。

群馬大学で訓告処分を受けたことでその誠実さを立証した火山学者・早川由紀夫さんの作成した福島原発事故の放射能マップ

http://blog-imgs-26-origin.fc2.com/k/i/p/kipuka/09decJG.jpg

を見ると、なんと、伊東・熱海にうっすら降っているけれど、その奥の伊豆市あたりはセーフのはずなのである。しかし、伊東・熱海まで来れば、伊豆の山まで行って、そこで降り積もるだろうから、伊豆にセシウムがきていてもおかしくはない。早川マップでさえ、実際の散布よりやや少なめに出ていることがわかる。

どうして乾シイタケにたくさんセシウムが出るかというと、乾燥させるので水分が減って、一キログラム当たりの放射性物質の濃度が上昇するからである。

「県は、基準値超えの原因が「乾燥」にあるとみて、水に戻した状態でも測った。干した状態で599ベクレルだったのが、10分の1以下の49ベクレルと基準値内に。水に溶け出したセシウムも23ベクレルだった。県は「食べる状態では健康に問題ない」と呼びかけた。」

ということである。それはそうなのだが、椎茸1個あたりのセシウムの量は、濡れていようと乾いていようと変わらないのだから、一袋の乾シイタケを買ったときのセシウムの量は、同じである。

で、1キロ当たり599ベクレルとして、それはどのくらい危険なのか、という点についてであるが、それにはまず、我々が普通にたべている食べ物にどのくらいの放射性物質が入っているか、を考えないといけない。一番、多いのはカリウム40であり、セシウムの化学的振る舞いが近いことからも、それと比較するのが好い。我々の身体に4000ベクレルくらいのカリウム40が入っており、毎日、3.3グラム(=100ベクレル)くらいの強度の放射性カリウムを摂取している。もちろん、これでかなりの内部被曝をしているのだが、カリウムをとらないと死んでしまうし、放射性カリウムをより分けるのは不可能なので、仕方がない。

さて、乾シイタケには1キログラムあたり21グラムのカリウムが入っているそうで、下の原子力資料情報質のデータから、「カリウム1gに放射能強度が30.4ベクレルのカリウム-40が入っている」というので、

21グラム×30.4ベクレル=638.4ベクレル

ということになる。このくらいの放射性カリウムは、たとえ関西の乾シイタケを食べても、否が応でも摂取してしまう。

つまり、1キログラムあたり599ベクレルのセシウムが入っていれば、天然の放射性カリウム638ベクレルにプラスして、それとほぼ同量の放射線を内部被曝することになる。そのくらいであれば、ガタガタ言うほどのことではない。カリウムの多い食品、つまり、

パセリ1000 ザーサイ 680 中国ぐり 560 おかひじき 510 こんぶ(乾) 5300 豆みそ 930 納豆 660 あしたば(生) 540 あゆ(天然/焼) 510 わかめ(素干し) 5200 よもぎ 890 きゅうりのぬか漬 610 かぶの葉のぬか漬 540 たくあん漬 500 とろろこんぶ 4800 こんぶつくだ煮 770 やまといも 590 焼き芋 540 たい(焼) 500 ひじき(乾) 4400 アボカド 720 ぎんなん 580 にんにく 530 かぶのぬか漬(根) 500 ベーキングパウダ 3900 ひきわり納豆 700 大豆(ゆで) 570 モロヘイヤ 530 しそ 500 インスタント珈琲粉 3600 ほうれん草(生) 690 ほや 570 からし菜漬け 530 チリソース 500 あおさ(乾) 3200 ゆりね 690 里芋 560 にら(生) 510 あじ(焼) 490 切干だいこん(乾)、(以上100g当たりのカリウムのmgを表示)

を食べていると、このくらいはどうしても摂取してしまう水準である。

そういうわけだから、測り方を変えて欲しい、という話もわからないではない。わからないではないのだが、それでも、カリウムと違って摂取する必要のない放射性セシウムをわざわざ摂取するのは、全然乗り気がしない。ただ内部被曝が増えるだけだからである。乗り気がしない奴は、非国民だと言われても、そう思うのだから、仕方がない。無理して食べるのは気分が悪い。

それに、全国民に満遍なくセシウムを摂らせるのは、やはりその分だけ確実に国民の被爆量が増えるのであり、一人ひとりの健康被害はわずかでも、何千万人となればそれは確実に健康にボディーブローとなって効いてくるわけであるから、政策としてよろしくない。知らぬが仏では済まないのである。

ちなみに、乾シイタケ1キログラムといえば、
$マイケル・ジャクソンの思想(と私が解釈するもの)著者:安冨歩

という量である。確かに、これを使い切るにはかなりの回数が掛かるから、500ベクレル程度なら、そんなに危険ではない。

というわけで、私の判断としては、既に買ってしまったなら食べてもいいであろうし(子どもはやめよう)、食べてしまったものを気にすることはなかろう。

しかし、こういうキノコは、すべて東京電力に買わせるのが筋だと私は思う。それは巡り巡って、結局、税金になるとしても、一旦は、彼らに背負わせるのが筋である。というのも、「許容量」というのは、「がまん量」であって、東京電力がばらまいたセシウム入のキノコを、我慢して食べさせられる筋合いはどこにもないからである。

これを東京電力を擁護して、「大丈夫ですから、食べてください。(食べない奴は臆病者か根性悪ですよ。)」と強要するのは、気色が悪い。気色が悪い以上に、「日本ブランド」を傷つけて、日本経済の価値を貶めて、国益を損なっている。

いま経済的側面から原発事故について考えるなら、対処すべきことは、

・「日本ブランド」の価値をどうやって回復するか、
・日本国内の個々のブランドの価値をどうやって回復するか、

である。そのためにやらないといけないのは、

・原発とキッパリと手を切ること
・原発から出た放射性物質が少しでも入っているものが流通しないように、万全の検査体制を流通システムの中に構築すること
・放射性物質の付いたガレキを原発近くに集中して低レベル廃棄物として処分すること

である。そうやって「日本=クリーン」というイメージを何としてでも回復しなければならない。それをやらなければ、我々の最大の財産である日本ブランドは、永遠に放射能まみれとなって、二度と、価値を回復できない。

=================原子力資料情報室のカリウムの説明=======

http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/4.html

存在と生成
 天然に存在する代表的な放射能で、太陽系がつくられた時から存在している。同位体存在比は0.0117%で、カリウム1gに放射能強度が30.4ベクレルのカリウム-40が入っている。カリウム-40が人工的につくられることはほとんどなく、同位体存在比の高いカリウム-40は同位体濃縮によって得られる。
カリウムは岩石中に多量に含まれ、玄武岩、花こう岩および石灰岩の含有量は、それぞれ0.83、3.34および0.31%である(玄武岩1kg中の放射能強度は262ベクレルに相当する)。土壌の含有量は0.008~3.7%の範囲にあり、平均値は1.4%である。
 食品中の濃度はかなり高く、白米、大根、ほうれん草、りんご、鶏むね肉およびかつお1kgに含まれるカリウムの重量は、それぞれ1.1、2.4、7.4、1.1、1.9および4.4gである(白米1kg中の放射能強度は33ベクレルに相当する)。外洋海水1リットルには、0.400g(12.1ベクレル)が含まれる。

化学的、生物学的性質
カリウムはナトリウムと似た性質をもち、化合物は水に溶けやすい。体内に入ると、全身に広く分布する。
カリウムは必須元素の一つである。成人の体内にある量は140g(放射能強度、4,000ベクレル)で、1日の摂取量は3.3gである。生物学的半減期は30日とされている。


==========朝日新聞の記事======
記事2011年12月20日11時5分

 干しシイタケから国の基準値を超す放射性セシウムの検出が相次いでいる。乾燥で重量が減り、1キロあたりのセシウム量がはねあがるためだ。干しシイタケは通常、水で戻して食べるため、産地では検査のやり方に疑問の声も上がる。

 発端は東京電力福島第一原発から約300キロ離れた静岡県伊豆市。10月、販売業者が自主検査した干しシイタケから国の基準値(1キロあたり500ベクレル)の2倍の値が出たと県が発表した。この春に加工したものだった。県の再検査でも超えた。県は原発事故後に加工した伊豆市の干しシイタケの出荷自粛を決めた。

 「こんなに離れたところでまさか、こんなことになるなんて」。同市椎茸(しいたけ)組合の鈴木博美組合長(63)は困惑する。その後の検査で鈴木さんの地区は自粛が解除されたが、今年600キロほど収穫した干しシイタケの4割が売れ残った。

 干しシイタケは、保存性に優れるだけでなく、乾燥によってうまみが濃縮されるため、だしとしても重宝され、この季節、おせち料理の煮しめにも使われる。

 半面、水分がなくなる分、生よりも重さが約10分の1に減る。県は、基準値超えの原因が「乾燥」にあるとみて、水に戻した状態でも測った。干した状態で599ベクレルだったのが、10分の1以下の49ベクレルと基準値内に。水に溶け出したセシウムも23ベクレルだった。県は「食べる状態では健康に問題ない」と呼びかけた。

 その後、検査が広がり、19日現在で同県を含め、神奈川、群馬、栃木、福島の5県で計39件の基準値超過が見つかっている。

 地元の農協は、国に検査方法の変更を求める署名活動を実施し、全国の生産者に賛同を呼びかけた。今月12日には、水で戻して食べる状態にしてからの検査を訴え、厚生労働省と農林水産省に緊急要請をした。