このドラマのもうひとつの悲劇は、言うまでもなく、阿須田家の悲劇である。

この悲劇もまた、タガメ女あるいは Bilie Jean である結城凪子が、阿須田恵一という格好のカエル男をとっつかまえたところから始まる。どうやって捕まえたかというと、例の「今日は大丈夫」という奴である。その手口で結を妊娠し、おびえる恵一に「堕ろすなら死ぬ」と宣言して結婚したのである。ドラマの中で結は苦しみぬくが、それは母親が死んだからではなく、自分がそういう手段として利用されて生まれてきた、という出自のゆえである。彼女の名前の「結」は恐ろしいことに「家族を結びつける」という意味である。

この恐るべきタガメ女は、腰抜けカエル男が嫌になって逃げそうになるたびに「気合妊娠」を繰り返し、男が三回逃げそうになったので、翔、海斗、希衣と更に三人も生んだ。しかしそれでもあまりにもつらいので、恵一は会社で不倫して、ついに離婚を迫った。これにぶち切れたタガメ女は、恵一に最悪の呪縛を掛けるべく、自殺してみせたのである。

この自殺はおそらく、同時に、父親の結城義之へのあてつけである。この人物は元校長の厳格な父親、という最悪の欺瞞人類であり、結城凪子があのような偽装の鬼となったのは、この父親のせいである。あまりにひどい奴なので、母親はくたびれてとっとと死んでしまった。妹のうららに対するプレッシャーは、凪子のおかげでかなり弱かったのであろう。それでも、人格は半分くらい狂っていて、死ぬほどドジであり、愛想笑いの王者であり、できもしないことを引受けるので、みんなから嫌われている。

こういう情況のところに、ミタさんが乗り込んでくることで、ドラマが始まる。

(つづく)