「なんだその面は。」

いろいろと言い難そうにしている新開さんの様子に、黒崎さんが突っ込んだ。流石に気心の知れた飲み友達同士。

「仕事じゃなかったんですか?」

不思議に思って僕が尋ねると、「いやその…」と口を開いた。

「仕事…になったんだろうな、最終的には。俺の仕事に絡んできてさ。ホントならただの付き人で、くっついて来ただけの筈だったのに。」

…?どういう事だ?

「話の勢いというか、成り行きというか…。例の松内瑠璃子のわがままに振り回されて、試しにやってみるか、って話になっちゃった。実はその時、最上さん…今の京子君の足の骨にひび、入っちゃってたんだけどな。」

新開さんのその台詞に、僕以外の2人の顔が変わった。口があんぐり、目は点。ま、おそらく僕も同様な顔だったんだろう。鏡がある訳じゃないから多分だけど。

「…試しにやるって、足にひびって…何ですかそれは。」

話の先が気にかかり、促すと、新開さんはため息を一つついて話し始めた。

「歩き方一つなってなかったんだ、瑠璃子は。ま、いまどきの子なら着物の歩き方なんざ知らなくて、当たり前っちゃー当たり前なんだけどさ。で、当然NG出して、やり直しさせた。できるまで何度もな。だが何が悪いのかまるで分かっちゃいない瑠璃子には、嫌がらせにしか思えなかったらしくてね。ついにブチ切れたんだ。」

「役者なら、監督の納得する画が撮れなきゃいくらでもNGが出るくらいの事、分かってるだろうが?」

黒崎さんがぼやくと、周りの人間も頷いて同意した。

「そんな事も分かっちゃねーから宝田社長も手を焼いてたんじゃないのかなぁ。性格矯正一味に蓮や俺まで使う気だったし?」

ため息混じりに呟く新開さんに同情を禁じえなかった。




なんか書きたい事がじわじわ見えて来ました。
修正しながら読み返ししつつ、直すところはぽちぽち直し中です。