キョーコとアイツが俺をけなしつつフォローする。
…クソッ、これじゃ俺がただの道化だぜ…!
しかし、この放送が流れた後、キョーコの奴が爆弾発言した例の暴露番組が更に放送されると、世間の目ががらりと変わったようだった。


「…ねぇ、尚。
歌う以外の仕事、増えてるんだけど、請けるからね?」

「はぁ?
なんでそんなこと聞くんだよ。」

「…この前のキョーコちゃんの暴露の後、事務所で会議があってね…。
貴方の売り出し方を変えようかって話になってるのよ。
今までみたいにカッコイイのや歌だけじゃなく、もっと地を出した売り方をね。」

だからバラエティーとかトーク番組の、今まで出た事あってもカッコつけてごまかしてた部分を出しなさいと、命令口調で言われてしまった。
拒否権はないと言わんばかりに言い捨てられ、俺は新たにその手の仕事をする事になってしまったのだった。



それから更に1ヶ月程経った頃、俺の携帯にミルキちゃんから連絡が入った。

「はい、俺だけど。
どうかしたのか?
ミルキちゃん。」

『………。』

「…あれ?
ミルキちゃん?」

『…私よ。』

一発で分かった。

「キョーコっっ!!
おま、何でミルキちゃんの携帯から!?」

『…たまたまお会いしたから、掛けさせて貰ったのよ。
活躍の場が拡がったみたいでよかったわね。』

自分の携帯からなんて掛けたくなかったからだと言われて、頭に血が上る。

「お前、キョーコのくせになんて事しやがる!
お前のせいでお笑い番組やらバラエティーやら!
出たくもない番組に出させられて、いい迷惑だっ!!」

『~はぁ…。
いいでしょ?
あんたの好きなお笑い番組に自分が出てんのよ?
地が出せるから楽でしょうが。』

「テメ、そんな訳にいくか!
第一なんであんな暴露話しやがったんだ!」

『…決まってるでしょう?
復讐よ。』

血が上った頭に一気に冷水をかけられた気分だった。

『芸能界に入って、まあまあ活動出来てるけど、あんたに悔しい思いさせるにはいい機会だと思ったのよ。
同じ芸能界でもジャンルが違うから勝ったの負けたの言えないしね。
あんたと腐れ縁の幼なじみだってカミングアウトしてもこっちは潰されないくらいになったっていい証明になったでしょ?
あんたがどんな男だか世間に知らしめてもよかったんだけど、武士の情けってやつでお笑いとプリンだけにしてやったのよ。
これ以上拘わり合いになりたくもないしね。
…ああ、これからはプロモーションビデオやCFの共演のオファーがあっても断るから、そのつもりでね。
どこで会っても挨拶以上の会話も御免だわ。
じゃあね!』

プツッ、と音がして電話が切れた。
…クソッ、あいつ言いたい事だけ言って切りやがった!
慌ててミルキちゃんの携帯にかけ直すと、キョーコは既に立ち去った後だとミルキちゃんに言われてしまった。

『尚。
今の電話、私目の前で京子ちゃん見てたから言えるけど、本気の絶縁宣言よ。
貴方はたった今、幼なじみの京子ちゃんに捨てられたのよ。
自分の幸せに、貴方は必要ないって事ね。』

言ってる意味、解るでしょうと言われ、俺はあの日のキョーコの心に付けた傷を漸く理解したのだった。


『だけどね、彼女は貴方をただの歌が上手いだけのカッコつけじゃないって事、みんなに見せるチャンスをくれたのよ?
それが彼女の言う“武士の情け”なんだから、しっかりしなさいね。』


そう言って、ミルキちゃんも電話を切った。

「武士の情け…ね。」

確かに今までよりも気持ちが楽になっていた。
カッコつけてた時には出来なかった事も堂々とできる。
あいつが遺した最後の贈り物は、俺がもっと軽く羽根を拡げるちからになったのかもしれない。
あいつはやっぱり俺を羽ばたかせてくれるただ一人の女だったんだな…。

気付くのが遅すぎた真実に、後悔の涙が堪え切れなかった…。







切る編、これで終了とさせていただきます。
なんか最後はぶっちぎり、な感じがしますが、切られた側の苦痛を馬鹿尚に味わって貰いたかったんです。

後はエピローグですね。
思ったよりも長くなってしまってますが、最後までお付き合い下さい。