交際に至るまでの順序に相当な乱れがあったものの、蓮とキョーコは無事心も身体も結ばれ両想いとなった。

…が、互いの立場もあるため、その交際は秘密とされ、キョーコは引き続きラブミー部に籍を置く事でカモフラージュすると社長命令により決定したのだった。



「心配するな!
時期が来たら大々的に発表だ!」



…との社長の宣言に、この件に関して相談の必要がある俳優部主任・松島と同じくタレント部主任・椹、蓮のマネージャー・社に本人達2人が声にしないで全く同じツッコミをため息混じりに入れたのは当然であろう。


(((((それが一番心配です、社長…。)))))


それから数ヶ月後。
表向きは変わらず、しかし水面下で愛を育む2人の前に、結果として縁結び役となった馬の骨が現れた。

それはその日の仕事がもう少しで終わりという時間帯。

ドラマの収録の休憩時間が終わりに近づき、スタジオに戻ろうと控室を出た所で、キョーコは後ろから不快な声に呼び止められた。



「珍しくまだ仕事かよ。
もう終わりだろ、この後メシ食いに行くぞ、付き合え。」


うんざりして振り返ると案の定、かつて復讐を誓った男が壁に手をついて立っていた。


「…お生憎さま。
まだ仕事が残ってるし、その後の予定もちゃんとあるの。」


あんなに憎かった男が、今のキョーコにはどうでもいいものに変わっていた。

何の感情も湧かない目でキョーコが尚を見ていると、今キョーコが出て来た控室から、背の高い影が現れた。


「…お待たせ、最上さん。
…あれ?不破君。おはようございます。」


こちらはといえば以前の敵意が感じられない。
余裕すら窺える。
尚は違和感を感じずにはいられなかった。


おもむろにキョーコが口を開いた。



「…そうだ、あんたに一つ…二つね。
お礼を言っとくわ。」


キョーコの言葉に更なる違和感。
(キョーコの奴がこの俺に、今の関係の俺に礼!?)


「…一つ目。
私がこの世界に入るきっかけになってくれた事、礼を言うわね。
それから…もう一つ、こっちが無ければ今の私はいないから、これもお礼は言っとくわ。
この前あんたがくだらない気持ちでやった事、あれのお陰で気が付いたわ。
気持ちの伴わないキスと、想いの通じ合ったキスの違い。
お陰で今は私生活が充実してるわ。
…ありがとう。」


キョーコは言いたい事を思いきり言い放った分、すっきりした顔をして尚に背を向けたが、尚の方がそれで収まる訳がない。


「おっ、お前!?
  ちょ、ちょっと待てっ!」


詰め寄ろうとする尚と、キョーコを護る様に肩を抱く蓮の間に、優秀で有能なマネージャー、社が立ちはだかった。


「…うち(LME)の大事なタレントと俳優に近付かないでね、不破君。」


去っていこうとするキョーコの肩を抱きながら、不意に蓮が尚を見て笑った。


「…そうだ、俺からも礼を言わせてくれ、不破君。
君がキョーコにこの世界を示したから俺はキョーコに出逢えた。
それから、この前の君の愚行がなければ、俺の今の幸福はないからね。
本当にありがとう。
…それじゃ、また。」


呆気に取られて2人を見送ってしまった尚は、2人の安全確保を完了した事で後を追おうとしていた社に食ってかかった。


「何なんだよ、アイツはっ!」


「…不破君、ジャンルは違っていても同じ業界だ。
歳も上、芸歴も上の相手をアイツ呼ばわりは恥だよ。
自分の立場を考えて行動したら?」



ひややかにそう言い残し、社は軽く会釈して去って行った。



尚は今自分の目の前で起きた事が、キョーコの態度が信じられなかった。

前回会った時、自分はキョーコのファーストキスを奪った。

再会した時には怒りや憎しみという感情で支配され、自分の事で頭を一杯にしている筈だったのに、この状況は何だ。

あのキョーコの目。

怒りも憎しみもない、興味も関心すらないと言わんばかりの目。

その目を思い出して、尚は愕然とした。

そこで漸く気付いたのだ。

自分がしたことは、自分の存在をキョーコの中から抹消する行為になってしまったと。

自分の行動があの2人を強く結び付ける結果を招いてしまったのだと。


自分を探していた祥子に見つかるまで、尚はその場に立ち尽くしていたのだった。




-end-







…う~ん、尻切れトンボな気がしなくもないですが、一応尚をヘコましておしまいです。

初・桃色も入りました。
この作品のお陰でアメンバーさんが増える増える…。←びっくり。

でも桃色って難しかったです。

皆さん言ってらしたんですが、いたたまれなくなるのですよ。

…でもご希望が来たらまた書くかも…。←懲りてないっ!

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。