「…この様子じゃ、京子さんに迫ってた男達…諦めないですよね、日本に帰って来たくらいじゃ。
半端なく殺気立ってるもの。」


千織の言い分に、同席していた全員が頷く。


「…敦賀さん、京子さんを手に入れたらどうしますか?
返答によっては私、敵にも味方にもなりますよ?」


「どう…って?
別に彼女を隠すつもりはないし…。」


戸惑いながら呟くと、千織は睨み付けるような鋭い視線を蓮に向けてきた。


「…女優を辞めさせるつもりは?」


「ある訳がない!
…そりゃ、俺だけを見てて欲しいとは思うけど…俺は最上 キョーコっていう1人の女の子を愛しているのと同時に女優・京子の才能にも惚れてるんだから、才能を潰す様な真似は絶対にするものか。」


真剣に言い募る蓮に満足したのか、千織は笑顔で頷き、右手を差し出した。


「それさえ訊ければ十分です。
海外の馬の骨なんかに盗られたら、京子さんの女優としての人生が奪われてしまいますからね。
私がやっと出会えた理想の役者なんです、京子さんは。
馬の骨の排除に全面協力は惜しみませんよ、敦賀さん。」


その言葉に同意した全員の前で、蓮は安堵のため息と共に、見たことも無い程崩れまくった“敦賀 蓮”にあるまじき笑顔を晒しながら千織と握手を交わしたのだった。



翌日から協力者の全面監修の元、キョーコに形振り構わず所構わず必死で迫る蓮の姿が見られるようになった。

キョーコのスケジュールは椹が、蓮のスケジュールは松島が調整し、出来うる限り接触出来るように画策し、二人が遭遇出来たら邪魔者が入らぬように社が時間の許す限りブリザードバリアを張りまくり、奏江と千織は事有る毎に滔々と蓮の気持ちを懇切丁寧に読み解いてキョーコに説明し、頑ななキョーコの気持ちをこれまた懇切丁寧に解す役を引き受けた。

そんな凄まじいキョーコ包囲網を形成しながら、全く報道されなかったのは偏にローリィの比護の賜物であった。



そんな周囲と蓮の懸命な努力が実を結んだか、はたまたキョーコの中で自然に意識が変わったのか、決して崩そうとしなかった“先輩後輩”の壁を壊す時がやって来た。


遂に彼らがやって来たのだ。

…といっても日本まで来られる財力のある者は限られたらしく、人数はかなり減ってはいたが。



製作会社を辿って遂にキョーコの元にたどり着いた彼らは、案内された事務所で一番大きな会議室で一触即発の修羅場を繰り広げそうになっていた。


自分がはるばるキョーコを求めて日本までやって来た情熱を分かって欲しいと必死に言い募る男達(通訳越しだが)に、椹を筆頭にキョーコを護る事務所の社員達。

困惑するキョーコの周りには駆けつけた奏江と千織、ローリィから話を聞いたマリアも陣取っていた。


「…見覚えのある連中ばかりでしょ?」


奏江からの問いに戸惑いながらキョーコは頷いた。


「…う、うん。
皆さん、少し前にお世話になった街や村のお兄さん達…と長老さま?」


なんでモー子さんが知ってるの?と首を傾げるキョーコに、千織がため息混じりに答えた。


「椹主任の所へお蔵入りDVDが送られてきてね、社長さんが私たちにも見せてくれたのよ。
近い内に一騒動起こるから事情を知っておきなさいって、ね。」


「…一騒動って…。」


「アンタ、最後の日にそれぞれの街や村で熱烈に口説かれたのをあっさりスルーしたでしょうが!!
だから諦め切れない男達がはるばる日本までアンタを追っかけて来たのよ!!
アンタを自分の嫁にしたくてね!!」


奏江の言葉に唖然とした風にキョーコは呟いた。


「…リップサービスか冗談だと思ってたのに…。」


「とにかく!!
アイツらの嫁にさせられたら、アンタ、演技する喜びを永遠に奪われるわよ!!
それでもいいって言うんじゃないでしょうね!?」

「!!やだっ!!」


折角ここまで頑張って創り上げた“最上 キョーコ”を無くすなんて!!と言ったキョーコに、奏江と千織は頷き両側からそれぞれキョーコの手をギュッと握り、その顔を覗き込んだ。


「…京子さん、ここ暫く私や琴南さんが色々話したのは今日の為なの。
敦賀さんから頼まれたのよ、力を貸してくれって。
  自分が幾ら本気なんだと話しても信じて貰えない、悠長に構えている時間はもう無いからって。
つくづくヘタレよねぇ。
社さんも言ってたけど、あの顔で恋愛初心者は詐欺だわ。」


突然飛び出した大先輩の名前と、その彼に付けられる形容詞からかけ離れた表現に、キョーコは自らの耳を疑わずにはいられなかった。







ちょっといつもより長めです。

切りのいいとこがなかったんです。