「よっ、集まってんな?」



ひょっこり会議室に顔を出した豪奢な出で立ちのローリィに、予想していた緑川 和泉以外の京子ファンクラブメンバーの社員はつい狼狽えて挙動不審になっていた。



「後ろ暗い集まりじゃあねえんだ、そんなに狼狽えなくたっていいじゃねえか。」



「…社長がいらっしゃっただけでもう条件反射的に挙動不審になっちゃうんですよ。」



和泉の言葉に一同うんうんと同意する。


そんな社員達に構うことなく、ローリィは早速本題に入った。



「まぁ、そんなのはいいや。
話は椹から聞かせてもらったぞ、緑川くん。
だが行動に移すのは時期を見てからにしてもらいたい。」



「何故ですか!?」



「相手のいる事だし、程度の問題もある。
君らにしてみりゃ自分達の大切な京子が酷い目に遭わされていて腸が煮え繰り返っているんだろうが、信憑性があるって程度で動いたら流石にまずい。
だから時期を見ろと言ってるんだ。
丁度京子の契約について身上調査を始めたところだったからな、結果を待ってからでも遅くはないだろう?」



相手はアカトキの不破 尚だ、逃げも隠れもしねぇんだしなと不敵な笑みを浮かべるローリィに、社員たちは背筋が凍る思いがした。


そうだ、京子を気に入っているのは自分達だけではない。


この一見奇抜な出で立ちの人物もまたその一人なのだと、一同は得心したのだった。



事務所の最高責任者であり、ラブミー部の直属の上司でもあるローリィの言葉に否やを唱える者等ある訳も無く、その日は取り敢えず解散となったのだが、時間に余裕が出来た分社内のファンクラブメンバーに情報が漏れ無く行き渡る事にも繋がり、ローリィのGOサインさえ出れば即動き出すLME守護隊が形成されつつあった。




調査会社からの報告が上がって来たのは、昼休みのファンクラブ会合が設けられてから約1ヶ月後の事であった。



知己の調査会社社長が直々に調査資料を持ってやって来た事に驚きながらもソファーを勧め、ローリィは依頼した資料を受け取った。



「…いやぁ、俺も長年こういう稼業やってりゃな?
それなりの人生歩んでる奴らの調査なんかもしちゃあいるんだが…。
何なんだこの子は!?
たった17歳かそこらで、普通じゃねぇぞ!?」



俺もガキがいるが、こんな悲惨な人生歩んでる子もいるのかと愕然となったぞと言い放つ友人に労いの言葉を掛けつつ、ローリィは渡された資料に目を落とした。



…数分の後。

盛大な溜め息と共に顔を上げたローリィは、詳細に渡るまで調べあげてくれた友人に感謝を述べたがそれ以上は何一つ口に出さず、苦悩の表情を浮かべていた。


友人たる調査会社社長も掛ける言葉が見つからず、じゃあまたなとだけ言い置いて社長室を後にしたのだった。



常になく苦悩の表情を浮かべるローリィに、控えていた秘書が耐え兼ねて声を掛けた。



「……社長…。」



「……訳ありだとは思っちゃいたんだがなぁ…。
ここまでだとは予想外だったぜ…。
…よし、椹に伝えてくれ!!
緑川達に今夜10時、うちに来るように、とな!!
いよいよ動く時が来た、と言えば解るともな。」



「…承知致しました。」



秘書は皆まで言わずとも理解したのだろう、深々と一礼すると部屋を辞していった。



「…知ったからにはただじゃあ済まされねぇよなぁ…。」



額に手を当て苦悩の表情を浮かべていたローリィが顔を上げて覗かせた眼光の鋭さを、日頃の陽気な姿しか見たことの無い者達が見たら裸足で逃げ出したくなる程に冷ややかであったのは、誰も知らない。





その夜。


椹からの通達を受けたファンクラブメンバーが必死に時間を遣り繰りしてローリィ宅に全員が現れたのは、言われた時間の僅か15分前であった。



「…な…何とか間に合った…流石にキツイわ、久々の社長の緊急招集は…。」



最後にやって来た和泉を他のメンバーがお疲れ様と労っていると、チャイムを押す間も無く門扉が開かれ、インターホンのスピーカーから早く入って来いと社長直々の声が聞こえてきた。


一同は顔を見合せ頷き合うと、やや足早に奥に聳え立つ屋敷に向かって歩き出したのだった。




「…待ってたぞ、さっさと座れ。」



執事に案内されて入った部屋の奥にローリィは居た。


だが常に有り得ぬその出で立ちに社員たちは驚きを隠せなかった。



あまりにもまともな出で立ちに。



お茶をお持ちしますと言い置いて去る執事の声に促される様に、社員たちは緑川を中心にローリィと向き合う形で腰を下ろした。


尤も座れたのはほんの数人で、残りの十数人はその後ろに立つ格好になったが。



「…社員の中にファンクラブメンバーがいるのは聞いてたが…結構な数だな、おい。」



これでも半分来られなかったんですと和泉が笑うが、ローリィはそれを気にすることはなく話し始めた。