はい、久々更新でございます。


いや~、今回はいままでになく難産でございました。
(;^_^A


何回書き直したことか…(-_-;)


それでは↓からどうぞ。















「どうするべき…なんですか。
俺は、何をしたらいいんですか。」



「…ふむ。
それを決めるのはお前でも、況してや私でもないな。
お前が己が所業を悔いるなら、当然詫びねばならぬ相手は決まっておるからな。」



和尚の答えに松太郎は暫く黙っていたが、そのまま頭を下げると本堂を後に宛がわれた部屋に下がっていった。



(三つ子の魂百まで…と言うが、長年培われた自分の意識を変えることは容易ではない。
あやつの理不尽な差別意識をへし折る荒療治はしたが、心からキョーコさんに詫びるにはまだ時間が掛かるんだがなぁ…。)



和尚は松太郎が去っていった方角を見詰めながら重い溜め息を吐いた。




その後も毎夜の説教は変わらなかったが、諭される松太郎の様子が日を追う毎に格段に変わっていった。



そんな日の午後、松太郎の両親から寺に、芸能事務所から連絡が入ったと知らせてきた。



「お前はどうしたい?」



「…どんな形であれ、けじめはつけなきゃいけないと思いますから…行きます。」



和尚の問いに、寺に来た時とはまるで別人の様に気持ちの整理がついたような面持ちの松太郎がはっきりと答えた。



和尚もそんな松太郎に頷き、ついに実家に戻ることを赦したのである。




「…やはりご住職のお力をお借りして正解でございました。
心からお礼申します。」



迎えに来て深々と頭を下げた両親に習って同様に頭を下げた松太郎に、住職は解ってくれたのかと頷いたが後に己の未熟さ故に彼の真意を見抜けなかったことを後々後悔したと語ったという。


そう。


彼は、松太郎は、自分が“歌手『不破 尚』”に戻る為に自分があたかも理解し反省したかの様に振る舞い、寺から逃げる手立てを画策したに過ぎなかったのだ。



数日後遥々東京からやって来たアカトキの社員にも松太郎は礼儀正しく振る舞い、まんまと親も騙して東京へ、歌手“不破 尚”として生きる世界へ戻っていったのだった。



(はっ、こういう態度してりゃあバレねーよな♪
だぁれがあのキョーコごときに謝罪なんかするかよ。
それにしても参ったぜ。
何であんな目にこの俺様が遇わなきゃならねーんだ。
それもこれもみぃんなキョーコのせいだ!!
あ~もう、思い出すだけで腹が立つ!!)



…要するに松太郎…尚は何一つ反省することもなくただただ3ヶ月休養した形で芸能界に復帰したのである。



勿論事務所の目を欺かなければならない分、少しは巧く立ち回る様にはなっていたのだが。




…しかしそんな尚のずる賢さを見逃さなかった者達がいた。



女優・京子の守護者たちである。




「……あの態度はフェイクよね。」



「ああ、大人しく行儀良さそうに振る舞っちゃいるが、不意に気を抜くとボロが出るんだろうな。
…アレで俺たちを欺こうなんざ1000万年早いってモンだ。
実家で性根を叩き直してくりゃあ、まだ手加減してやったものを…遠慮は要らねえってことだな。」



思う存分やれると思うと腕が鳴るぜと実に愉しそうに哄笑(わら)う同志に、犯罪行為だけはしないでよと一応ストッパーをかけた女性スタッフも苦笑した。




どうにか3ヶ月で復帰した尚だったが、尚を取り巻く芸能界での環境は激変していた。



先ず今まで積み上げてきた名声などまるで無かったかのように一から出直しに近い仕事を回される日々。



新曲を出そうとレコード会社に打ち合わせに行っても、今まで担当だった春樹は別のアーティストをプロデュースしていて手が回らないから、と素っ気なくあしらわれ見るからに不慣れな若い社員が打ち合わせに来てしどろもどろに話す始末。


勿論マネージャーは祥子である筈もなく、事務所でも指折りの堅物と有名なマネージャーがピッタリと張り付き、実は反省もしていない尚には気を抜く隙さえない環境で仕事をするのは実家や寺にいた頃よりも苦痛になっていた。



「……どうしました?
次はTVジャパンのプロデューサーにご挨拶して、ラジオ番組で新曲の売り込みですよ?」



「あ…あの…前はこんな仕事無かったんですけど…。」



「それは前任の安芸の怠慢というものですね。
新人ならば必ずする事ですよ?」



「…俺、3ヶ月休んでたとはいえ、新人じゃないんですけど。
何でこんな事しなきゃいけないんですか?」



ほんの数ヶ月前までトップアーティストの1人としてちやほやされていた尚には納得がいかなかった為、つい本音が飛び出してしまったのだが、マネージャーになった男はそんな尚を蔑む様な眼差しで見遣り、こんな事も解らないのかと溜め息を吐いた。



「…君は自分の立場が解っていないんですね。
僅か3ヶ月、ですがその3ヶ月が音楽業界の勢力図を激変させているんですよ。
これをご覧なさい。」



マネージャーになった男は仕事道具のビジネスバッグから一枚の紙を引き抜き尚に差し出した。



「………なっ!?」