青峰くんは僕を好きだと言いましたが、僕は青峰くんを好きにはなれません。好きになったところで恋人同士になどなれない。
なんでこんなに悩んでいるのは僕だけなのだろう。
僕だってあなたに好きだと言いたい。
好きで好きで仕方が無い。この気持ちを素直に口に出せるならいますぐにでも口走って後悔しよう。
それはそれで辛い選択になってしまうのかもしれないが、僕は決して「恋人同士」にはならない。
以前火神くんが言った。
――お前にとっても俺にとっても、この関係はプラスになる
意味が分からずに説明を求めた。
教室には夕日が射しこみ、日が傾いていると知れる。僅かな時間を惜しむように夜へ夜へと急いでいく冬の日だった。
とうして、と首を傾けた黒子に「黒子にとって青峰って何だ」と彼は聞く。
「憧れです」
「憧れはいつか捨てなけきゃいけねえ」
「どうして決め付けるんです?」
「黄瀬が捨てたように、上に進めないからだ」
「どうしたら捨てられますか? そもそも火神くんには関係のないことです」
ふいと火神から視線を外し立ち上がる。黒子にとって青峰への憧れは捨てられない。黄瀬が憧れを捨てたのは試合に勝つため、そして自分を高める為だ。自分にはそれをする意味が無い。
「お前、青峰が好きだろ」
図星だ。
そんなに自分は分かりやすかっただろうか。
確かに、青峰は元相棒であり親しい中だった。パス回しをする中でも一際輝き、自分の力を最大限に出せる相手でもある。力を見いだした人は違うが、それまでパスの練習にも付き合ってくれた。
「憧れたままじゃあ恋人にはなれねえよ」
「バカですか。誰がいつ恋人になりたいだの、好きだの言いました? 勘違いされては困ります。僕は青峰くんなんてなんとも思ってない。むしろ離れていたいんですよ」
「それは黒子が青峰を怖いと思ってるからだろ」
「違う!」
冷たい空気を纏って黒子は叫んだ。一瞬ビクリと肩を震わせた火神も「怒んな」と静かに言った。
「どうして青峰くんなんて好きなんですか。嫌いって言ってるのに、好きなんて……死んでもいいません」
夕日の色をした涙が黒子の頬を伝い落ちる。
机に小さな水たまりを作り、黒子は号泣した。
何が駄目なの。何をしたら忘れられるの。
どうして火神くんにはお見通しなの。
なんでなの。
疑問ばかりが浮かんだまま消えてくれない。それどころか頭の中を埋め尽くした。
「青峰を忘れたいか?」
「はい……ひくっ」
瞼を擦って涙をぬぐう。
「目が腫れるからこれ使え」
ぴっしりと整ったハンカチを火神に渡されて、また流れ出した涙を拭いた。
「そんで、俺と仮でもいい。付き合ってくれ。お前にとっても俺にとっても、この関係はプラスになる」
青峰くんを忘れても、火神くんにはプラスになるとは思えない。
まして、付き合うなんていままで言われたどの「付き合って」とも違うニュアンスだ。
「黒子が青峰を忘れられて、俺はお前と付き合える。駄目か?」
大の男がしょんぼりと眉をへの字にしてくるものだから、黒子は強く断れなかった。火神の願いはささやかな、それでいて自分にとっては大きな願い。
「忘れられるなら、付き合います」
くるりと火神に背を向けて教室を出た。後を追って火神が後ろを歩く。隣を歩こうと歩を進める火神に向き直った。
「ただし、本番は僕からします。それが付き合う条件ですよ」


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青峰を忘れたい黒子と、青峰と黒子を応援したいんだけど、そんな黒子を好きになっちゃった火神が空回りしちゃうお話。
突発なので続かない。