最初にこの家に来るときに待ち合わせしたのは、江南にある古い教会の前。
その裏には小さな劇場があって、以前、オレはユノに連れられて、ある芝居を観劇したことがあった。
真夜中の教会は暗がりのなかで、屋根の上の十字架だけが白く光りに反射してみえた。
オレが向かうと、すでにそこにユノの車が待っていて、中を覗き込むより先にドアは音もなく開けられた。
無言で、助手席にもぐり込むと同時に、車は目的の家に向かって走り出した。
「どこにあるの?その家って?」
「・・・・・」
返事のないユノの横顔。
「オレの声、聞こえてるよね?」
「ああ・・・」
抑揚のない声に一瞬驚く。昨日、テレビのライブ放送で、ユノをみた。
そこではオレの眼にはどう贔屓めにみても、精一杯の作り笑いで微笑むユノの姿があった。
いま、オレの横にいる男が同じ男だろうか?
怖いくらい、ユノはなぜか寡黙だった。
『ジェジュン。おまえとふたりで過ごす家をみつけた。明日、来てくれ』
昨日のユノからのメール。
オレは突然のメールの内容に疑問を抱きながらも、約束を守った。
そう・・・。
この家は、小高い丘の上にある。高い木立に四方を囲まれているために、よくよく注意するか、家のすぐ近くまでわざわざ来ない限り、ここにこんな屋敷があるとは、まるでわからないだろう。
中世のヨーロッパの古城を、小さくしたような独特の気配を纏った、一風どこか異世界空間のような、瀟洒な屋敷だと思った。
だが、ユノに導かれ、ドアを開けたユノの向こうに広がる部屋の風景に、オレは最初困惑したものだ。
「ユノ・・・・ここって教会なの?」
天井には聖書の物語を模したステンドグラスが美しく輝いている。
時代がかった由緒ある木造教会の祭壇を、そのまま移設したような、1階の風景にオレは絶句した。
「そうだよ。かつて昔はね・・・今は、俺とおまえのものだ」
「え?・・・どういうこと?」
「訳あって、ここは俺に譲られた家だ。そのうち、説明するから・・・。いまは、とにかく・・・来て」
「どこ・・・に?」
この祭壇のある異質な部屋の空気に、わずかに気遅れしているオレの手を引き、ユノは祭壇の奥へと進む。
そこにある燻し銀のような色をしたキリスト像の裏側にまわると、聖書の並べられた書庫のある壁を、グイッと右腕でユノが押し、そこに真っ暗な階段が出現した。
奥まで、どうなっているのかもみえない暗闇の向こう。
そこは、この屋敷に隠された地下室への入り口だった。
そして、そこでオレは、あの夜・・・。
口にすることも、はばかられるような行為の数々を、ユノ本人から受けることになるとは、その時まではなにも
予想すらしていなかった。
あれから、もう1ヶ月が過ぎた。
オレの身体じゅうに残された傷も、ただ1か所をのぞいてだけ、すっかり治癒しかけていた。
ユノ。
苦しんだのは、オレか?おまえか?
声にならぬ叫びを、あの夜あげたのはオレ?それとも・・・・・。
オレ達の甘い甘い蜜の家。
ふたり以外の誰もいない、この世の・・・。
ふっとその夜の出来事を、思い出していたオレの身体を、ユノが抱き締める。
「ジェジュン。会いたかった。あれから元気だったか?」
「うん・・・ユノに言われたように、ちゃんと食べたよ」
微笑むオレをじっと見下ろして、ユノはそれが本当かどうか確認したいかのように、オレの腕を、腹をさする。
「嘘つくな。こんな細くなって・・・おまえ、ちゃんと食べてないだろう?俺があれほどッ・・」
「食べてるよ。でも、太らないんだもん・・・仕方ないじゃん」
ユノは首をかしげて見上げたオレを困ったようにみつけ返す。
「こんな細いと、イヤ?・・・骨っぽいかな、オレ?」
確かに、女の子のようにぽっちゃりした手触りなんてオレの身体のどこにもない。
「嫌なわけないだろう。俺はおまえしか、いない」
グイッと引き寄せられて、ユノの広い胸のなかに抱きすくめられる。
「おいで・・・」
そこは2階の寝室。ベッドと、ソファーテーブルと、テレビだけしかないような部屋。
「ここで、いいの?」
訊ねたオレを、ユノは上向かせてキスをした。
その言葉の意味をオレもユノも、もうお互いに理解している。
すべての思考も、理念も、取り払って、「ふたり」だけに没頭できる、あの地下室じゃなくてもいいの?
その程度には、ユノの正気は少しは、回復しているのだろうか?
ユノがオレの全身につけるマーキング。
うなじから胸、腰、腹や太股のつけ根、内股からくるぶし、つま先にまで。
ユノはオレに口づけて、赤い印を残す。それはひとつひとつ、皮膚を破るほどの信じられない強さと痛みを伴う。
「うっ・・・あ・・・あアっ・・・」
オレの身体はベッドの上を激しくはねる。
この痛みを耐えることが、オレに課せられたユノへの愛の証だった。
「ジェジュン・・・気持ちいいか?俺に抱かれて、気持ちいいのか?」
うわごとのように繰り返されるユノの問いは呪文になる。
オレの肢体の奥深く、愛される芯の疼きが、どうしようもなく刺激される瞬間。
シーツの波に消える吐息。混ざり合う、オレとユノの。
「口、開けろよ」
何度もうながされ、唇をひらくと、そこへ注がれるユノの唾液。
キスでむさぼられ、飲まされるユノの唾液。まるで、オレの舌を引きぬくような勢いで、絡まるユノの舌が、オレの顔を舐め始める。
「ジェジュン・・・・可愛いよ」
口のなかにあふれてこぼれるユノの唾液と、顔じゅうに這う舌で濡らされ、オレは頭からつま先まで、ユノに舐められない部分がどこにもない長い長い時間を、じっとされるがまま、この身をゆだねる。
「俺のキス好きか?」
「好き・・・」
腹をつたう熱い舌。そのもっと先。柔らかな薄い、真綿のような叢も舐めて、ユノの舌はまだオレのもっと秘密の
場所まで、ゆっくりとたどり着く。
「あっ・・・ン」
そこに、ユノは誰がつけるのも不可能な、所有印をオレにつけた。
それは、オレが初めてこの家を訪れたあの真夜中すぎの出来事。
「ジェジュン・・もう、ここ痛くないだろ?あれから、1ヶ月は経ってるからな」
「ぅ・・・ん。もう、だいじょうぶ・・・だよ」
ユノに愛されて、触れられて、ムクムクと起ちあがったままのオレ自身。
先っぽの濡れた部分をユノが指の腹で、ゆっくりと撫でる。
その茎の裏側。静かに、欲望を主張して、もたげた頭のすぐ下の部分を、小さなピアスが貫通している。
オレのその部分を、束縛するのは、ユノのイニシャル『Y』というアラビア文字が刻まれた、「フレナム・ピアッシング」だった。
男であるその部分の裏側に、貫通するための特殊なピアスが、オレには装着されている。
そう・・・あの初めての夜から・・・。
「これをジェジュンにつけたとき、興奮しすぎて3日間くらい眠れなかったよ・・・」
「自分で、きちんと消毒してただろ?たくさんあのとき、血が出たから、おまえ、殺しちゃうかと思ったよ。痛かったろ?」
ユノはまるで甘えるように優しく囁き、オレの耳たぶを噛んだ。
「痛いの・・・平気だ・・・よ。オレ・・・・ユノが好き・・・だからぁっ」
際限なく加えられる刺激に息が思うように続かない。それでもオレは、あえぐ胸を抑えて、微笑んでみせた。
「ジェジュンッ」
ユノの眼が、オレをようやくまともに捕える。
指先で熱を煽る仕草に、オレは柔らかな叢を、ユノのまぶたに自分から押しつけてみせる。
「あ・・っん・・・ユ・・ノォ・・」
ユノの大きな強い両手がオレの腰を抱いて、叢にキスをする。
息がフッと中心にかかり、またオレは温かな口腔に、すっぽりと包まれていった。
<続>
うっとりと、オレのそこに頬ずりをするユノ。
唇を舐めて、その舌先で、オレの感じすぎてたまらないソコを。
しっかりとオレ自身に装着されたユノのピアスを、ペロペロと何度も何度も円を描きながら、味わってはユノが微笑む。
そうして、ゆっくりと、今度は膨らみ全体を口のなかに含まれる。
熱い、ユノの舌が絡まる瞬間、オレの背筋を走るゾクゾクとした感覚に震えてしまう。
「愛しくてたまらない。おまえのここが・・・可愛くて、たまらないよ・・・」
「ユノォっ・・」
感じすぎて、身悶えるオレの理性は、ユノの幸せの邪魔者でしかない。