四男の源志は第六子なので、嫁さんが入院している間は五人の子供をひとりで世話をすることになります。
夕方に陣痛がはじまり嫁さんは病院に向かいましたが、自分は仕事もあるし子供たちに御飯も食べさせなければなりません。
  やっと病院に駆け付けられたのは、もう9時をまわってからだったと思います。
車を止めて子供たちを降ろすと
「絶対に静かにしろ」
そう念には念をおしてから院内に入りました。
すると、警備のおじさんが
「こんな時間にそんな人数で非常識な」
と、怒ったのです。

  もちろん解らないでもありません。
五歳を頭に四歳三歳二歳一歳と、五人も子供を連れているわけですから……
でも、まだ小さい子供達だけで家に置くわけにもいきません。。
「絶対に静かにさせますし、すぐ帰りますから」
とお願いしてもダメでした。
言われていることはもっともだし、解るのですが「決まりですから」の無表情な対応に不愉快になり最後は
「その決まりはどうしても覆らないんですか、一度ちょっと中から確認をとって頂けますか」
という趣旨の言葉を、もっと手短に大きな声で…

要するに怒鳴ってしまいました。

  


「すいません宜しいそうです、どうぞ」
こちらの要望に応えて確認してきてくれたにも関わらず、
「そうですよね、そんなに絶対の決まりではない筈ですよね」
とか
「でも、おっしゃることも解りますので今回は失礼致しますね」
というような趣旨のことを大きな声で…
要するに、また怒鳴ってしまいました。
更に最後に
「これで今晩うちの嫁と子供に何かあってみろ、お前の面は一生忘れねぇぞ」
というような趣旨のことを
ものすごく丁寧に静かな物言いで…

         ……それはないか。
 
  源志の生まれる瞬間にも、側にいてやれませんでしたね。