いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ―有効需要とイノベーションの経済学/吉川 洋


一見矛盾する二人の経済学。なぜ両方が必要なのか?
今、直面する経済問題について、2人の天才が遺したものを振り返る。
2人の処女作に始まり、ターニングポイントとなる戦争・恐慌、また彼らの名著を紹介し、
彼らが行き着いた考え・理論に触れる編年体といった構成だ。

まず彼らの主張を見ていくと

<ケインズの主張>
一国経済全体の活動水準は、供給側ではなく、需要の大きさで決まる。
言いかえれば、不況は需要不足によって起きる。

<シュンペーターの主張>
企業家によるイノベーションこそ、経済発展の要である。
またイノベーションは不連続であり、好況を生み出すものだが、
新しい均衡への調整(不況)が必要であり、不況なくして、経済発展はなしという。

お互いの注目すべきところを書き出すと

<ケインズメモ>
ケインズは投資が最も重要視されるべきものであるという。
→投資が孕む不安定性こそ、資本主義経済の変動すなわち景気循環の主因という。
投資が著しく落ち込めば、貨幣数量とは独立にデフレの原因となる。
投資が増えれば、GDPはその乗数倍に上昇する。
インフレの下で企業が行う事業はギャンブルとなり、投資の効用が劣化する。
→棚ボタで得た儲けは、心理的均衡を破壊となり、日本でいうバブル紳士に成り下がる。
「付和雷同」が正解となるゲーム。それこそが金融市場の本質。

<シュンペーターメモ>
1929年の世界恐慌は、第一次世界大戦後のイノベーションによって必然的に起きた不況だ。
金利は、あくまでもイノベーションの結果として生まれる実物的変数である。
イノベーションによって新しいモノが生み出されるから、需要が飽和することはない。


下記に示すマンキューの入門経済学で基本的な知識を漁ってからこの本に挑んだが
やはり経済学を専攻としていないので、わからないところだらけだった。
ちょっと経済をかじったくらいの人には、おススメできない内容となっています。

ただその中でもシュンペーターの資本主義が生き延びるかという章は大変興味深かったので言及したい。
その問いに対して彼は、「ノー」という。世には多くの資本主義に対する悲観論があり、シュンペーターはそれを検討することから始まる。

・投資機会の消滅
世の中が豊かになり、発展を続ければ、欲望の飽和に達し、需要がなくなるという説に対して、シュンペーターは完全に否定している。シュンペーターの主張通り、イノベーションをし続けることによって、新たなモノ・サービスが生まれるため、投資機会の消滅は起こらないという。(携帯市場におけるiPhoneとかがその例)
・企業家精神の衰退・少子化が資本主義存亡のバロメーター
しかしシュンペーターは、資本主義の担い手である企業家が消滅することで、資本主義が終焉を迎えるという。従来まで、企業家は一族の繁栄のためにイノベーションを行ってきたが、資本主義の発展に伴い、一族ではなく、個人主義的功利主義が蔓延る。また経営と所有の分離、つまり実際に経営する経営者が企業の所有者ではなく、サラリーマン経営者となり、必然的に緊張感をすり減らし、イノベーションが起こる土壌が劣化するという。
その結果、自由主義経済に見える資本主義が、社会主義へ近づいていく(社会主義にはならないが)

多少の飛躍はあるものの、この考えは、ジャック・アタリ氏の考え方と似ている。
(21世紀の歴史―未来の人類から見た世界)

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ジャック氏が言うには、超帝国→超紛争→超民主主義の流れが今後起きるという。

1.アメリカ中心の世界が終わりを告げると、国家のラインが曖昧になり、弱体化し、国家が介在しない市場民主主義が始まる。
2.アメリカが利益を追求し、サブプライムローンによる金融危機を引き起こしたように、市場民主主義の暴走を誰にも止められず、限界まで利益を追求する。
3.限界を超える=自分の幸せのみを追求した結果、周りの人々、地域、国と争いが起こる。
4.資源を求め、水を求め、地域での権力を求め、世界各地で血みどろの争いが起こる。
5.最大級の緊張が起こり、人類は二つの道を迫られる。超紛争か?超民主主義か?
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シュンペーターがどこまで考えていたかはわからないが、本書で興味深い部分のひとつだった。
正解はなく、最適解を模索する経済学。これからインプットしていかねーとな。

マンキュー入門経済学/N.グレゴリー マンキュー
経済学入門にはマンキューがいいと聞き、ケインズ&シュンペーターを読む前に武装。
本当にわかりやすく書かれていて、これだけで基礎はカバーできるのでは。
イントロダクション・ミクロ・マクロと大きく3つの章に分かれており、章末には例題・応用問題がある。
ケーススタディ・コラムなどでも理解を深めさせてくれる一品。