(3月30・31日)
相手から電話が来たとき、非通知設定であったことから
一発で脅迫者からの二度目のコンタクトだと分かった
もちろんすぐに録音装置のスイッチを入れて、当初の予定通り怯えきった子羊の演技で沢山のNGワードを引き出してそのまま夜が明けたら警察署に行くつもりだった
しかしね
「あぁ 昨日の俺だけど分かってるよなぁ」
この自分が未だに正体不明であると堅く信じ込んでいる強気な発言を聞いたときにね
このお馬鹿さんに現在の戦力差を思いしさせてやりたくなったのよ
見てくれこの圧倒的な戦力差
現在俺は
彼の名前、年齢、住所、小学校、中学校、現在無職である事まで知ってる
しかも同じマンションの人だった
この電話も最初から録音されてる
警察官の叔父さんにも相談した
本当にいざとなったら友達全員集合で追い込みかけられる
しかも彼はモヤシッ子だそうだ
いわば自軍の基地にいてボタン一つでミサイル発射
瞬時に彼を瞬殺できる俺に対して
彼は地雷原に取り残された三等歩兵
しかも彼は自分が地雷原にいることに
まったく気がついていない
それだけじゃない彼は
この戦の勝利を信じてきっている
どうやって勝つつもりなのさ ●●三等兵・・・
この絶望的な戦力差を彼に教えてあげたくなった
ほらおれって親切だから
そんな訳で
「あぁ昨日の俺だけどなぁ分かっているよなぁ」
「分かっていますよ ●●君」
「えっ」
なんて心地よい響きでしょう
俺の求めていたものはこれなんだ
このセリフを聞きたいがために俺は脅迫されてたんじゃないかって言うくらいしびれたんだ
まさに形勢逆転
こうなると止まらないよ
「俺びっくりしちゃったのよ●●君●●マンションの人でしょ イヤだぁ俺と同じマンションだったんですか」
「それとねぁ家は隣の号室だってね ふふ」
「そーいや●●君 今無職なんだってね やっぱり就職厳しいんでしょ」
「・・・」
気持ちいい
気持ちいいわ
相手の自信が音をたてて崩れていくのが分かるよ
「・・・・」
「・・・・・だ・・・・」
「だからどうした・・・(絞り出すように)」
お 強がるねぇ ●●君
でもね
人間の本当に動揺したときの声って知っている?
悲しいほどにバレバレなんだよ
「だ 誰に聞いた・・・?」
「なんでそんな事教えてあげなければならないんでしょうか?
お天道様に恥ずかしくないように生きてれば親身になって協力してくれる友達なんて沢山いるんだよ」
「だ だからどうした こっちはパンツ隠したお前をぶっ殺すだけだ」
あぁこのお馬鹿さん ほんとどうしようもないな
「もう俺がパンツ持ってないって何度言っても信じてくれないので、もうこの件に関しては今日警察に相談してきたのよ」
「・・・・」
「もう警察に相談しましたので、今電話であなたの用件を聞く気はありません
今後は警察を通してお互い話をすすめて行きましょう●●君」
「・・・」
ほうどうやらこの変態キチガイも警察って言葉くらい知っていたようだ
この後、警察を動かしたと言った俺に対してなんと
「あんた本当に持ってないのか」と言いだした
テメー何度もそういったじゃねぇーか
切れそうになったがなんとか何ヶ月前引っ越ししてパンツ取れなかったのは当然って誤解を説いたよ
ようやく俺が隠してなかったってことを理解したようだ
彼の謝罪の言葉はこうだった
「あぁ昨日の事はぁ ど どうもすいませんでしだぁぁ、ひ 引っ越ししたとはまったくしれなかったぁぁ、それにぃついては あやまるけどぉぉ あんたも自分の喜びがなくなったらぁあ、あなるのは仕方ないじゃないですかぁー」
プチ(何かが切れる音)
怒
怒
怒
今までずっと冷静に対処しようとしたんだけど、もう無理
おれがわざとパンツを隠してないっていう全ての事情を分かった後、しかも他人のものを盗んでいたいたくせに、あれだけの事をしておいてこのふてくされた小学生のような態度
それに自分の責任を認めたくないから最後の方はなんくせつけて逃げてる
あぁ切れちゃった・・・
「馬鹿野郎 テメーがやったことは社会的になんの罰も受けずに許される事じゃねぇーんだよ
そんな軽薄な謝り方があるか馬鹿野郎、いいよ もういいわよ、あんたの家今から友達総動員して同じ事やってやるよ、俺が味わった気分をそのままあじあわせてやろうか、あぁコラ
でもな、これをやったらキチガイのあんたと同じ最低人間になっちまうからな、俺は大人としてあえてそれを行わずに警察に頼んだからよ
社会的にあんたに制裁をくわえてやるよ、いいから警察動いてっから引っ張れてこいよ
俺はねテメーが謝ったって被害届を取り下げるような事はしねぇーぞ、きっちり前科一犯になってかえってこいよ
あんたよ今就職探してるんだってな、前科持ちなんてよ まともな会社じゃ雇ってくれねぇよ、一生このままろくでもない人生送ってろよ いいからあんたは社会的に死んでこい」
「・・・・・・」
言いたい放題罵声を浴びせてすこし気が落ち着いてきた俺
「いい パンツとかどうでもいい でもな あんたに言った殺すって言われた俺はな眠れない、飯も喉を通らない、仕事に集中できない、怖くてしかたないから自腹切って電話の録音装置買ってよ、友達にも連絡して協力してもらってたし、警察にも相談したのよ
これで解決すればいいと思ったよ でもなそれでも不安だったわよ、あんたは家に来るって言ったよな、最低俺があんたに殺されるだけならまだしもな、もし俺の家族をテメーが傷つけてみろ、こうなったら大人の態度で警察を動かすとか関係ねぇーよ、家族を傷つけられてたら俺はあんたを間違いなく殺しにいってたよ」
「・・・・」
お前の言った殺すって言葉はな
言われた人間にこれだけの覚悟をさせてしまう危険な言葉なんだよ
そういう言葉をお前は使ったんだよ
「・・・・」
けして簡単に使ってはいけない言葉なんだ馬鹿野郎
「・・・・・」
あんたもな二十歳すぎた一人前の男なら自分の言葉に責任持ってくださいよ
「お 俺は、まだ・・・ガキだもん」
プチ(また何か切れる音)
「あまったれてんじゃねぇ●●」
以下上を繰り返し
このやりとりを三回ほど繰り返したの後、少しずつ●●君の態度が変わってきて
どうやら警察に引っ張られるって事の怖さが分かってたようだしどんどん従順になって来た
ようやくもう一度謝りたいと言い出した
しかしその前に彼の俺の知らない全てのデータを吐かせた
名前の正確な漢字、郵便番号、携帯の電話番号、家の電話番号、お父さんとお母さんの名前まで全部聞き出した
これで彼の個人データは完璧に握った
本当にこれで解決に向かいそうだ
*ちょっとやりすぎたかなと思ったが、当時の俺の精神状態を考えるとこのくらいは当たり前だと思えた
ここまで来たところで事態は急な展開を見せ始める
なんか電話の向こう側から女の泣きわめく声が聞こえてくる
えぇなんか知ってる声だよ、確か引っ越し前同じマンションの隣りだった超親しかったおばさん
「ちょっと電話をママに替わるから・・・」
どうやら彼のお母さん横で聞いていたらしい
「もしもし ●●ですけど・・エグッ・エグゥ」(必死に涙をこらえている様子を想像して)
「あぁ お久しぶりです」
以下ちょっとした話し合いをした
簡単に説明すると
どうやら彼のお母さんは、素性もばれちゃったし息子が下着盗んだのは悪いことけど
ここは昔親しかった隣りだし穏便にすまして忘れてくださるんでしょって遠回しに言ってきた
それに対して俺の答えは
「御免なさい 俺は彼に自分の発言に責任をとってもらう事に決めたのでもう無理なんです」
爆発するおばさん
泣き出した彼女は取り乱しながら言った
「ちょっと 何なのよ 何なのよぉぉ 警察って」
「ふざけないでくださいよ、非道いですよ」
「な なんでそんな事するんですか 非道いよ 非道いですよ」
「あなた最低よ●●●●よ なんなのよ なんで警察になんかに・・・」
痛いよ
痛いよ
痛いすぎるよ
かつての隣りさんにパンツ盗まれただけでも結構痛いのに
なんで殺されそうになった俺がここまで罵倒されなければいけないのよ
なんか涙をこらえながら必死に声を絞り出す俺
「●●さんおちついてください」
「俺も●●さんに確かめたい事がありますので聞いてください」
「●●さんは息子さんが俺のパンツ盗んでたことご存知でしたか?」
「はい」(泣きながら)
ショック
「だったらどうして息子さんを止めさせなかったんですか?他人の下着盗んだってダメに決まってるんでしょう?」
「まさかここまでの状況になるとは思わなかったんですが・・・
野口さんのことが気に入った我が息子がもしかしたらこの事をきっかけで結ばれるかもと期待してたかも知れません」
ごふ(吐血)
そんなこと絶対あり得ませんよママン
自分のパンツを盗んだ人のこと好きになる女ってあり得ないし
しかも結構親しかったので心のどこかから信用してた元隣りさんからこんなとんでもないショック発言聞くなんて
もはや致命傷だよ
精一杯ショックを受けているのをばれないように声を絞り出す
「おちついてください●●さん 俺は脅迫されたから警察に相談しただけですよ」
「息子さんが俺を脅して俺が殺されそうでしたって大前提を無視してお願いですから感情的な意見をぶつけないでください」
「だからそれについては謝るっていってんでしょ(怒)」
怖っ おばさんそれ謝ってねぇーよ(泣)
これだから泣きわめくおばさんは手に負えない
キチガイ呼ばわりした息子より、お母さんのほうが正常な判断が付かなくなった
もはやおばさんは
息子が、逮捕される事だけが心配で
昔の隣りさんが、パンツ盗まれたり、殺されたりしたってどうでも良いみたいですねお母様(涙)
ショックだよ まぢショックだよ
こんなにショックだったのは久しぶりだ
とりあえず、俺が心配でさきほど泊まりに来てくれていたミユちんが横で聞いていて俺のあまりのパニック状態を見ていられなくなり、電話を替わってくれた
「あぁもしもしおばさん、今感情的になりすぎてとつてもなく失礼な事言ってますけど、とりあえず落ち着きましょうね」
「えぐ えぐ」
とりあえずミユちんとの話でちょっとだけ落ち着きを取り戻したおばさん
そこで息子さん●●君が電話に替わる
俺も気を取り直して応対
「警察だけは勘弁してもらいませんか お願いしますお願いだからもう一度謝らせてください」
ほうほう●●君ようやく口の訊き方を覚えてきたようだね
先生とっても嬉しいわよ
ここまで言ったらアレだよ ドラマ定番のあのセリフを言っておきました
「あんたの誠意をみせて欲しいんです 俺は」
「わかりました今から謝りに参りたいのですがよろしいでしょうか?」
渋りながら
「しかたないわかりました 起きて待っていましょう」
現在AM2時、新宿中央公園の近くを待ち合わせ場所に指定した
どうやら●●君が
心からの謝罪をしてくれるそうなので大変楽しみ
しかし、所詮いきなり人の家に殺しに行くと言ったキチガイであるという評価は変わらないので
もちろん腹部にジャンプを巻き付けておきますし二メートル以内には近寄らせないつもりだ
会って突然ブスッとやられたらたまりませんからね
さぁ話は終わった電話を切ろうとした時に
なにかまた
おばさんが電話の向こうで息子さんに必死にわめいている
「だ・・よ・・・」
「だ・・・めよ行っちゃ」
息子の●●
「行かなきゃしょうがねぇだろうが」
なにやら二人で言い争いが始まったようだ
突然おばさんが●●君から電話を取り上げ俺に向かって
泣き叫びながらこう言った
「あ あなた地元によびつけて、●●君を殺る気なんでしょぉおお」
沈没
も
もう
もう驚きすぎて気失いそうだよ俺
かつて親しかった隣りのおばさんにもはや微塵も信用されていない俺
先ほどから殺されかけた●●君より
お母さんに対してちょっと殺意が芽生えそうなんですが・・・
もはや泣きだしそうな俺に替わって慌ててミユちんが仲介に入って
「絶対にさやかはそんな事できる奴じゃないから大丈夫です もし心配なら貴方も一緒に来なさい
貴方もさやかに対してまた恐ろしく失礼な事言っていましたからね」
もはやこの時点で事件解決に向かう喜びより
元隣りさんにここまで言われてしまったショックの方が大きくてふさぎ込んでたのだ
でもミユちんがおばさんは母性愛に狂っておかしくなってるから気にしない方がいいと慰めてくれて、なんとか己を奮い立たせて彼ら待つ中央公園へミユちんと向かうことができた
もう捨てるもんなんて無いしな
公園の入り口の前で
二人並んでたたずんでいた
「あ どうも●●です」
「あら」
俺を苦しめ続けた恐怖の変質者●●
とにかくごくごく普通の男だったよ
会ってみたところモヤシというほどではなかったね
しかし
下着盗んだりあんな脅迫をするなんてまったく見えない
*最近じゃ普通の奴の方が怖いって意味がよく分かったよ
ひたすら頭を下げ続ける二人
この後俺のお説教タイムが始まる
心のサドッ気全開だ
徹底的な言葉責めの始まりだったのだ
もちろん相手が言い返せないのは百も承知だ
言葉責めと言いつつもすべての世の中の常識を聞かせてやっただけですべて正論だったと思う
ただちょっと相手の心をえぐるように角度は
急角度だったけどね
一時間ほど追い込む所まで追い込んだ後
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いよいよこの計画は最終段階へ
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いくら反省の色が見えると言ったところでこの馬鹿者は思いこみだけでいきなり殺すと言ってきたキチガイなわけでして、どんなに反省してもその評価は俺の中で変わらない
今も万が一彼が切れて飛びかかってきても大丈夫なようにある程度の距離を保ってるし、身体は半身ずらして相手に対して急所をずらして喋っている
とにかく今までの奴との電話で俺が強く感じたのは
彼は思いっきり短絡思考であると言うことだった
彼女がパンツ隠して盗めない
パンツくれない奴なら殺しても良い
すぐさま奴の宅まで実行しに行く
こんな奴なんだから今回の事が終わった後
もしパンツ以外の喜びを探せないと
喜びが見つからない
やっぱりさやかのパンツしかない
さやか殺す
振り出しに戻っちゃうんだろが(泣)
だから結局ここで問題を解決してもこの後に刺されでもしたら笑えないので
最後はお互い
友好的な雰囲気のまま
逆恨みされることなくきれいにお別れしたいのだ
こんなお馬鹿さんとは
さて
先ほどの言葉責めで、自分のした事の大きさと警察に逮捕される事の社会的な意味に震えてひたすら平謝りの●●くん
そろそろ良いでしょ
「顔を上げてね ●●君、今回の事件に対して十分反省もしているようだし
俺も大人としてねこの一件の事はね
忘れないけど許す事にするよ
これからは●●君がもっとしっかりしてね、下着盗んだりする可笑しい事止めないといけないよ
●●さんも母ですから息子さんの悪い事止めさせないとと駄目ですよ」
待ち望んでいたお許しの言葉に
ぱぁーと 顔の明るくなる二人
「今回俺が巻き込まれたこの事件もね、この後●●君がもう一度自分の事を見つめ直して大人になってくれれば、大変な目に遭った俺の苦労も無駄じゃなかったと思えるのだからきちんと一人前の大人になってください」
「ほんとすいませんでした」「申し訳ございませんでした」
「それとね、自分の趣味を急に止めると苦しくなるかも知れないから、もしよければ直せる日までパンツプレゼントしたりして全面的に俺も協力させてもらいますよ」
俺と●●君の間でかわされる
かたい握手
●●君
「あ ありがとうございます・・・」
なんと●●君、うっすらと涙浮かべている
ニッコリ笑いかけながら俺
「いいんだよ 気にしないで」
自分が殺すと脅した相手が、許してくれただけでなくパンツ提供に協力してくれるという
俺のあふれんばかりの優しさにどうやら熱く胸をうたれた様子
完全に尊敬の眼差しだ
俺●●君の生涯もっとも影響を受けた人になる自信有りだ
彼の中で俺は生きた伝説として今後語り継がれるでしょう
これにて 脅迫電話事件
一件落着した やれやれだぜ
でもね 事件が終わった後、友達に言われた
自らの保身のために自分を殺しに来たキチガイとかたい握手をするほど「いい人」を演じきる君が大好き
うん俺もこんな自分が大好き(泣)