福島民友新聞 社説より転載いたします。


 相馬の集団移転/復興へ前進と受け止めたい(5月9日付)
 東日本大震災で被災した相馬市沿岸部の防災集団移転事業計画が国土交通省に認可された。同事業の認可は県内では初めて。移転先となる住宅団地造成が可能となり、再生に向けた動きが本格化する。復興へ一歩前進と受け止めたい。

 同市によると、対象は沿岸部の移転促進区域110ヘクタールの826世帯で、移転先の住宅団地として7カ所に約18ヘクタールを整備する。自主再建の世帯などを差し引いた計500世帯分の公営住宅や分譲用地を確保。移転を望んでいる市民にとっては、その後の生活設計を立てる上で大切な節目となることだろう。

 認可によって、移転促進区域の住民や、家屋が流失するなどして応急仮設住宅に入居している同区域の被災者は、整備される団地内に住宅を再建する場合、費用の利子が補填(ほてん)される。対象世帯が整備予定の団地や、それ以外の宅地などに移転する際には、引っ越し費用の補助が受けられる。

 避難している住民にとって、安定した生活を取り戻すことが何より大切なことに違いない。移転後も苦労は続くだろうが、新しい生活の場の確保を再スタートの契機として困難を乗り切ってもらいたい。

 同市は昨年10月、津波で家屋が流失するなどした地区を災害危険区域に指定し、新たに住居などを建設することを制限した。被災者を対象に住宅再建の個別意向を調査し、集団移転先となる住宅団地の規模などを検討してきた。

 これまでの同市の取り組みを振り返ると、避難住民にいち早く避難所から仮設住宅に入居してもらったのをはじめ、高齢者を対象にした公営住宅「相馬井戸端長屋」の建設、国内では初めてとなる「音楽による生きる力をはぐくむ事業」の協定調印など、積極的な被災者支援は評価されるべきだろう。

 同市の仮設住宅では、一部で住宅の自主再建が始まっているが、防災集団移転計画認可前の引っ越しについては、費用補助が受けられていない。市は認可前についても費用補助を復興庁に申請しているが、認められるのは厳しいとの見方もある。同じ被災者で支援が異なってはならないはずだ。認可前の被災者にも何らかの補助をしてほしい。

 同計画について、県内では新地町が国交省に提出済みで、いわき、南相馬両市も実施を予定しており、移転先について意向調査をしている。市町村によって、規模など事情は異なるだろうが、スムーズに計画が実施されることを願いたい。

 復旧・復興への道のりは険しいと言わざるを得ないが、着実に前進しているのは間違いない。相馬市の取り組みが他の市町村のモデルとなり、再生への先導になってくれることを期待したい。

 
※転載ここまで