※この記事は、2013年12月21日に書いた内容を、
加筆して公開したものです。
細胞が分裂しなくなる「細胞老化」とは、
細胞がそれ以上、増殖できなくなるという現象のことを言います。
老化した細胞に傷がついたり、損なわれたりした場合、
その細胞によって構成されている組織に重大な障害が生じる可能性があり、
また組織に障害が生じるよいうことは、
固体の死につながる可能性もあるということです。
このような「細胞老化」が起きる原因については、諸説唱えられています。
そのなかのひとつが「プログラム説」と呼ばれるものです。
「プログラム説」とは、
そもそも細胞の中にはじめから老化を引き起こす遺伝子が含まれている
という考え方で、
具体的には、
細胞を老化状態にするタンパク質を作る遺伝子が1個、ないしは複数個、
細胞の中に含まれていて、
その遺伝子の指令によってタンパク質が作られることで、老化が進行する
というものです。
この老化遺伝子の活動は、若い細胞では何らかの働きにより抑制されていますが、
ある時点で、プログラムにスイッチが入り、活動を始めるとされています。
現役の医師によって書かれてベストセラーとなったことでも知られる
2011年に発刊された南雲 吉則氏著の
50歳を超えても30代に見える生き方
「人生100年計画」の行程表 (講談社プラスアルファ新書)/南雲 吉則
で紹介されている「テロメア説」も「プログラム説」のひとつです。
染色体の先端にあるテロメアという領域は、1回の細胞分裂につき、
20塩基ずつ短くなっていき、このテロメアがほとんどなくなると、
その細胞はもう分裂できなくなります。
まさに、目覚ましのタイマーをセットしてあるようなもので、
このテロメアの機能もまた、
細胞にあらかじめ備えられたプログラムのようなものといえるでしょう。
この「プログラム説」が正しいとしたら、
「細胞老化」は生まれたときから定められている内部要因によるものとなります。
しかし、「細胞老化」の原因を外部要因に求める説もあります。
それは、「エラーカタストロフィー説」です。
「エラーカタストロフィー説」とは、
細胞分裂の際に約10億分の1の確立で起こるDNAのコピーエラーや、
紫外線や放射線、薬物といった外部要因によって生じたDNAの異常こそが、
「細胞老化」の最大の要因とするものです。
この説では、遺伝子に変異が蓄積すると、
その遺伝子によって作られるタンパク質も異常なものとなって、
その結果、
細胞が分裂できなくなる破綻(カタストロフィー)が起きるとされています。
あるいは、活性酸素こそが、
「細胞老化」の原因だとする「活性酸素説」を唱える学者もいます。
細胞内のミトコンドリアは、
酸素を使い糖質を燃やすことでエネルギーを生み出していますが、その結果、
活性酸素というものも生み出していまします。
そして、この活性酸素がテロメアの短縮に影響しているという説があります。
実際、固体レベルにおいても、
活性酸素の発生量の多い生物――言い換えれば代謝率の高い生物ほど寿命が短い
とうデータも存在しています。
「プログラム説」「エラーカタストロフィー説」「活性酸素説」のどれが本当に
「細胞老化」の最大の原因であるかは、現時点でははっきりとしていないようで、
どれかの説が間違っている可能性もあるし、
こ3つがすべて働いた結果、「細胞老化」が引き起こされているのかもしれません。
恐らく、後者の可能性のほうが高いと思います。
けれども、
どのような原因であれ、生命にとって「細胞老化」は避けられない現実です。
しかし、「細胞老化」には悪い面だけがあるわけではありません。
たとえば、
ガン細胞とは、無限に増殖し続ける細胞――
つまり、「細胞老化」が起きない不死の細胞のことです。
逆にいえば、正常な状態の細胞では必ず起きる「細胞老化」が、
その細胞のガン化を防いでくれているわけです。
細胞も死んでくれないと困るのです。
正常な細胞にガン遺伝子を入れた場合、細胞はガン化しないという実験結果もあります。
結局この強力な「細胞老化」の作用によって、
わたし達の命は守られているともいえるのです。