らんの誕生日の前日のことだった。

 

 

 

「どうして?」

 

らんは翔くんに似たさくらんぼみたいに小さく赤い口唇を噛み締める。

ニノみたいに丸く小さい手はスカートをギュッと握りこんで。

相葉くんみたいな大きな目には涙が今にも溢れそうになってる。

 

 

「ごめんね・・・

どうしても明日・・・おやすみできなくなっちゃって・・・」

 

「おやくそく・・・したのに・・・

やよいちゃんもまゆみちゃんも。

おたんじょうびにはみんなパパとママとおでかけしてるのに!

なんでらんはできないのっ!?」

 

「ごめん・・・でも、明後日はママはおやすみだから。

その日におでかけしよう?」

 

「・・・パパたちは?」

 

「うん・・・・と。パパたちは・・・」

 

3人は仕事が詰まってて。

最近、ほとんど休みが取れてない。

言葉を濁した僕にらんは状況を察したらしい。

キッと僕を睨んだ。

 

 

「ママのうそつきっ!だいっきらい」

 

らんはそう言うと、くるっと身を翻すと自分の部屋に走りこんだ。

視界から姿が消えた途端に号泣する声が聴こえる。

 

ため息が出そうになるのをこらえた。

ため息吐きたいのは、僕じゃない。

らんだ。

 

 

こんなことが起きるなんて。

考えたことすらなかった。

 

らんとした約束は仕事を理由に何回も破ってた。

約束が守れなかったことを、そのたびにちゃんと謝ってた。

らんはそのたびに駄々もこねず泣くこともなく。

お仕事大変だね、って僕の頭を撫でたりして。

労ってくれさえもしてくれてたから。

ちゃんと納得して許してくれたんだ、って。

ずっと安心してた。

 

でも・・・ホントは。

そうじゃなかった。

小さい体に似合わないほどの大きな心に悲しい気持ちを抱え込んで。

いっぱい溜め込んで。

抱え込めないほど溜まっちゃったに違いない。

 

 

らんの部屋の入口のドアは開けっ放しになっていた。

コンコンとノックしてもらんの泣き声はおさまらない。