もしも、あの時、僕が事務所を辞めてたら。
デビューを振りきって逃げ出してたら。
こんな時間はなかったのかもしれない。
ホンの少し前までは暑い気がしてたのに。
あっという間に季節が変わり。
日が短くなって、朝夕には肌寒く感じる日が増えてきた。
そろそろ鍋物も美味しく感じるかな。
でも、翔くんは暑がりだから・・・
鍋物はもうちょっと寒く感じる時期になってからの方がいいかも?
スーパーでガラガラを押しながら、売り場をウロウロ歩きまわる。
魚売り場と肉売り場を行ったり来たり。
最近、肉が続いてたから、魚がいいかな?
夜遅く帰ってくる翔くんは骨取りながら食べる魚は面倒だろうし。
刺し身っていうのも、毎回じゃ飽きるよね。
とりあえず、野菜売り場に行ってみようかな。
良い野菜があったら、それに合わせてメニュー考えてみよう。
結局、鍋物。
いい白菜があって。
サラダでも美味しいとは言われたけど・・・
やっぱり火を通した方が消化もいいだろうし。
ミルフィーユ鍋にしよう。
豚バラ肉の薄切りを買って。
あ、大根おろし用の大根と・・・
柚子胡椒もあったら美味しい。
ポン酢もちょっといいのを買っておくと鍋物の時にいいし。
タレも数種類準備しとけば、その時の気分で選べるし・・・
夏が過ぎた後の最初の鍋物の時にはいろいろ買うものが多い。
ガラガラに載せたカゴいっぱいになった。
買いすぎたかな?
エコバッグに入りきらなそうで、レジ袋も買う。
レジ袋は持つと手が痛くなるから、あまり好きじゃない。
けど・・・しょうがない。
袋いっぱいになってしまった荷物を覚悟を決めて持ち上げようとした。
「智くん、やっぱりこの店にいた」
「翔くん?今日は遅くなるんじゃなかったっけ?」
「昼のが1時間巻きで終わって。
その後の取材を繰り上げで始めてもらって、結果、3時間巻き!」
言いながら、さりげなくレジ袋を持ってくれる。
翔くんが買い物してても、騒がれることがない。
このスーパーのいいところの一つ。
駐車場に停まってる車は大きい外車が多い。
見覚えのある黒いワゴン車に近づくと自動でドアが開く。
「お久しぶりです」
乗りながら声をかけた。
現場マネージャーさんに会うのは、最後の日以来かも。