雨の中、何かに呼ばれるように櫻の名所に足を向けた。
水面に落ちる雨。
雨に打たれて落ちる花弁。
傘の当たる雨の音に混じって、何かの音がする。
はっきりとは聞こえないその音。
耳を澄ませてみる。
・・・くん。
俺の名前?
誰かが呼んでいる?
呼ばれた気がしたのは、この声のせいだったのか?
今まで気付きもしなかったこの声。
気付くと、耳にずっと残る。
・・・・くん。
どこから呼ばれているのか?
ふと、目を止めた。
櫻の垂れた枝の下。
手招きする手が見えた。
女性と見紛う美しい手。
あぁ、俺が取るべき手は・・・
あの手だった。
キーンと高い音が耳の中で鳴り。
甲高い声が俺を詰る。
涙声が俺に別れを告げる。
二つの声が俺の耳で行き交う。
別れを告げた声の持ち主は・・・どこへ行ってしまったのか?
・・・くん。ここだよ。
温かい声。
俺が取るべき手はあなたの手だった。
ふらふらと後悔が混じる足取りで声の方へ近付く。
手招きする手は近付くとともに動きを止める。
手を上に向け。
俺が手を取るのを待っている。
雨の中。
色を失っている指。
手を取るのを躊躇う。
んふふふ。
・・・・くん?
疲れ切った体と心が癒される声がまた耳に響く。
あぁ、これでいいんだ。
その手を取った。
ぎゅっと握られ見えたものは・・・・
冷たい笑顔の知らない女だった。
ふふふ・・・我が名は
木花咲耶
ふふふ・・・はははは
嘲笑が響いた。
☆★
前と同じタイトルになっちゃいましたけども。
まあ、いいかな〜
定点観測の桜、今年も見て来ました。