シンデレラエクスプレス
ずいぶん洒落た、でも古めかしい名前。

　私たちが使うこの時間の新幹線はカップルがとても多い。ドアとホームに別れていつまでも手を繋ぐ２人。ホームの隅に隠れて抱き合う２人。思い思いの別れの時間を惜しんでいる、遠距離恋愛の恋人たち。

　同じ遠距離恋愛をしている私なのに、どうしても醒めてしまう。涙を流して次の逢瀬を約束する恋人たちに。

　だから彼はホームに着くなり足早に席に着く。私はホームでそれをただ見ている。窓越し、声は聞こえない。さっきまで繋いでいた指の隙間が落ち着かなくて、両手を合わせる。そして、なんてことない顔で見つめ合う。

わかってる。
泣かないよ。
だって、必ずまた逢えるから。

窓越しに彼の口が動く。
に・い・し・て・ご・ら・ん。

　はいチーズって写真を撮るように、口許を「にぃ」の形に留めると、笑ってるように見えるんだよね？　泣かないように決めたふたりの合言葉。

にぃ。

　彼には笑顔に見えたかな？　満足そうに頷いているから、きっと笑えてる。大丈夫。

次に会える日まで
最後の顔は笑っていたい。
長い夜を何度越えても
思い出すのは笑顔であって欲しい。

　発車のベルが響く。控えめに手を振って見送る。またねって動く口。ゆっくりと、でも確実に彼が遠くなる。もう彼の顔が判別できないから、ホームを後にする。駆け足で階段を下る。

彼の前ではちゃんと笑顔でいられた。
だからご褒美。

少しだけ、泣かせて。