2015年6月読書メモ | あざみの効用

あざみの効用

或いは共生新党残党が棲まう地

太田出版に対して嫌悪を催しつつも「絶歌」読了。厨ニ的露悪といってもいい内容に全く他人におすすめしない作品。読みつつも常に頭に浮かんだのは冷静に「淳」をものし、全国犯罪被害者の会の運動を通して世論を動かした土師守医師の姿。犯罪被害者の会の活動は、その後犯罪被害者基本法、司法への被害者参加制度の導入に結実している。そして土師は現副代表幹事の要職でもあります。


今回、出版界の慣例たる遺族の同意を取り付けること無く出版に及んだ(しかも、幻冬舎見城氏の言を信ずるならばより残酷な表現が追加)蛮行に、マスコミ被害者の多い同会がどのような反撃を加えるか注視。


暴力の解剖学: 神経犯罪学への招待/紀伊國屋書店
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これはおそらく今年ベストの一冊。
科学・医学の発展により神経犯罪学という大きな潮流ができあがりつつあるということを現段階で整理した一冊。
暴力・犯罪の問題をブラックボックス化した「心の闇」から救い出し、近代刑法の父、ロンブローゾが夢見た「可視化」する技術。遺伝子、脳はある程度知っているつもりだったが、衝撃的なのは「安静時心拍数」も立派な指標足りうるということ。一つ一つの指標ではサイコパスなど例外がありうるためにいかに複数の指標を組み合わせていくかが今後の鍵・それでももともと精神分析は論外としても、精神鑑定・カウンセリングの診断なんぞよりはよほど信が置けると感じるのは私だけではあるまい。
真の問題は、全般的な遺伝子診断につきまとう「生まれながら」のリスクを社会が冷静に受容できるかということ。

ルポ 保育崩壊 (岩波新書)/岩波書店
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ルポ 母子家庭 (ちくま新書)/筑摩書房
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貧困・労働問題で誰か一人名前をあげろというなら、私なら小林美希氏を迷わずあげます。―彼女の最初の著作を読んで7年近く経過しておりますが彼女の志はこの間微塵も揺らいでません。個別の具体的な悲しみを救い出し、その悲しみを全体統計・法律・歴史に問題を映し出し、怒りとともに解決策があれば提示する。個別と全体のバランスが絶妙。

あえて両新書でどちらかをあげるなら「保育崩壊」をおすすめします。横浜市の待機児童ゼロが成功例として持ち上げられる風潮は、保育を「量」の問題に貶め要は民営化の中で保育士の労働環境も、そして保育の「質」も崩壊しつつある現実をつきつけられる。幼児の気持ちに思いを致すと、1ページ1ページが重いです…。