2016年5月読書メモ | あざみの効用

あざみの効用

或いは共生新党残党が棲まう地

裁判官や検察官、警察官を被告や被疑者の立場に置く訓練が有効な根拠もここ々にある。任官する時だけではなく、毎年でも、できれば毎日でもこのような訓練を受けさせるべきなのだ。法廷での弁護士の役割も、検事に何が何でも反対するところにある。野党が政府に何でも反対したり、弁護士が無理な難癖で検事の主張を崩そうとすることを非難するものは、数百万年の歳月が形成した人間の弱点を克服して生き延びる唯一の方法を理解していないだけなのだ。清瀬の<五・一五事件>弁論の如く、壮大なる物語による別の<認知バイアス>に満ちた対案では、ときに大きな禍根を残すことにもなるが。

            管賀江留郎「道徳感情はなぜ人を誤らせるのか」



道徳感情はなぜ人を誤らせるのか ~冤罪、虐殺、正しい心/洋泉社

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大著としか言いようが無い。吉川澄一、紅林麻雄、清瀬一郎などなど取り上げられる人物群の「キャラ立ち」ぶりに目眩がすること必至。本人が後書きで「造花の秘鍵」論をもって事実の羅列を編むに結果的に「物語」化した部分について注意をしているが、彼ら登場人物の痕跡をたどることで、戦前戦後の断絶を超え、一犯罪を超え、社会・政治への影響を読み取りたくなる…そこが、正に著者にとっては隔靴掻痒な部分だろう。膨大な情報を記すことでそれこそ彼らの全体像をもった理解も得られるが、結果的にあちこちに痕跡を残しているがゆえに陰謀論的に彼らの影響を過大にも捉える誘惑にかられることになる。

いずれにしても「冤罪」という究極的な人間の業が発露する部分を切り口に、事件、登場人物、社会・歴史的背景、そして人間というものを考え直す筆致は鮮やかとしか言いようが無い。

また、一般に語られない歴史の闇に埋没している個性・魅力的な人物を堪能するだけでも十分に堪能できる一冊となっております(プロファイリングの元祖とでも言うべき吉川澄一技師の業績について恥ずかしながら全く知りませんでした)。

シュルレアリスム辞典/創元社

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パプリカのパレードの台詞のようでさっぱり理解できないがゆえに面白いということが世の中にはある。シュールレアリズムと精神分析の発想は近い…。

アンドレ・ブルトンは、アリが大嫌いだった。1935年夏にランド県で過ごした時、彼はアリ害に悩まされ、アリにガソリンをかけて焼き払ったところ、住居まで燃えてしまった。そういうわけで、当然のことながらオオアリクイが彼のトーテムになった。彼は1929年に、粘り気のある舌にアリをくっつけていくオオアリクイの見事な大食いの姿を、生命に不可欠な食欲の象徴と考えた。「人生は、アリクイの舌がアリに差し出されているのと同じような誘惑をもって、人間に与えられている」

人々が大理石像を作りに来るのが不思議だよ…。木の根、壁の亀裂、侵食された石、砂利の中に何かが見えるということは理解できる。でも大理石の中に何かが見えるかね?」


2020年マンション大崩壊 (文春新書)/文藝春秋

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社会経済問題に関して「ユースバルジ」以来、人口動態的視点を持つようにしている身空としては至極納得の一冊。国家、都市、家族など社会的構成体に適正規模があるのならば、当然マンションにも同様の視座が必要。タワーマンションの十数年後が今から楽しみ…永遠の論争課題とも言われる持ち家幻想にも一石を投じる。