そのお客さんは私に向かって「夏子はシャブのやり過ぎで、頭がおかしいかにな!」と私に言って来る。しかも、このお客さんは夏子の家まで知っているらしく、事細かく家の場所を言ったあとに「かあーちゃんとふたり暮らしだよな!」と言って来たので、私はお父さんもいるんですよ!と警戒させるように言い放ってやった。このお客さんは夏子にお父さんがいることは知らなかったらしい。

 

しばらくすると、店長からここの席に来てと頼まれたので夏子のお客さんの席を外した。

 

そこも、ヘルプの仕事だったがお客さんのレベルは最悪でもあった。この店は、比較的安い料金でもあるのでそれに見合ったお客さんたちが来ている。言っては悪いが、川口市とは鋳物の街として有名らしいが、鋳物関係の仕事をしているお客さんたちはレベルがかなり低かった。

 

 

話し言葉やホステスへの扱いなども含めて、最悪であった。別に鋳物を商売としている全てのひとたちに対してではなく、ここに来ているお客さんたちのことである。

 

チークの曲が流れると、ヘルプで座っていたお客さんが私に「踊ろう」と言って来たので、仕方がなく一緒にチークを踊ることになる。

このお客さんは私に「あなたは、夢とかあるの?」と、唐突に聴いて来たので、後に勤めることになっている映画会社で働くことを思い出して「映画会社で働いて、メイキャップの仕事なんかしたいです」と言うと、このお客さんは「あなたは体型的にももっと痩せないと無理でしょうね」とのたまうのだ。

 

 

何で、体型が関係あるの?と言い返したい気持ちだったが、ぐっと我慢をして、「そうですね」と言っていた私だった。この当時は、伊勢丹で働いていた頃にしょっちゅう飲みに行っていたので、私としては今までにはない体重になっていたこともあったからである。

 

こういうときは、矢沢永吉の『成り上がり』の本を想い出すようにスイッチが入るようになっていた。馬鹿にされる→落とし前をつける→余裕である。落とし前をつけようじゃないか!怒りで私は震えていた。