東映映画会社では、女優さん志望でバイトの仕事に入って来る人物も結構いた。しかし、東映映画会社では俳優を募集しているわけではなかったので、自分が見込みなしとわかるとすぐにバイトを辞めていくひとも多かった。何を勘違いしているのだろうか?

 

ここへバイトで入って来る女性たちは皆が芸能界に入れると勘違いをしているらしい。何の俳優経験のないただ自分は多少綺麗だわと思って、あわよくば芸能人にスカウトしてくれはしないかしら?と思って軽々しく考えていると、文学座の劇団員の幸子さんは言うのだ。

 

彼女が働く文学座は基本的に舞台が専門であるので、華やかな芸能界とはいくらか違うという。しかし、文学座でもテレビ部門などもあるので、今までに多くの俳優さんがテレビデビューしているなかに文学座出身ということもあるというが、これは宝くじに当たるよりも確率は低いという。松田優作さんと言えば一番わかるだろう!

 

ところで、私はたまたま日曜日にNHKで放映される劇場中継を観る機会があった。李 麗仙さんが演じるひとり芝居ー桜川という能のお芝居でもあった。

 

内容は、子どもと離れ離れになった母が、狂乱して子を尋ね歩く子別れの狂女物である。李 麗仙さんが演じるひとり芝居では、まさに桜の花が美しく咲き誇る明るさを振舞う李 麗仙さんから、妖しい美しさを放つ桜と、狂い咲きをする桜の花を連想させるような李 麗仙さんの演技力にただ私は魅了されたのである。彼女の流す汗や涙にひとは舞台というお芝居の世界でありながら、こんなにも人々を酔わせることができる演劇の世界とは何て感動的なのだろうか!と私は完全に李 麗仙さんと一体となる雰囲気に酔っていたのだ。

 

このお芝居をテレビ放映ではありながらもこんなに感動したことを速く仕事場に行って、澄子さんに知らせたかったのである。

 

 

<   解説文の引用  >その美しさはまるで妖しのようでもあり、人を魅了し、虜にし、摩訶不思議な世界に引き込みます。その桜を使い、600年も前には、あの能の世阿弥が「桜川」という謡曲を残しており、「物狂いの」名作として、現代も数多く演じられています。妖しい美しさを放つ桜と、能を大成した世阿弥の作品と、そして荘厳な神社を舞台にし、 現代劇の母・李麗仙が「贅沢な花見」をご用意しました。現代語に訳された「桜川」、生の琵琶の音色を使い、李麗仙が演じます。(咲く 世阿弥、李麗仙の夜桜ひとり芝居「桜川」公式ページ引用)